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アイハラチグサ | Chigusa Aihara

童話の世界から迷い込んだような女の子や動物たちの、どこかとぼけたシュールな「決定的瞬間」。それを水彩インクやアクリル、紙のコラージュなどを使って表現するのがアイハラチグサさんです。描線はナイーブでどこか頼りないのに、描かれている世界はどこか怖かったり寂しかったり、おかしかったり。奇想天外なのにリアルな構想力がディテールに力を与えており、グッズやTシャツなど、プロダクツとの相性も良さそうな絵の数々。色彩の美しさも印象的です。先ごろ大阪で個展を開き、その内容に新作をプラスして、GALLERY SPEAK FORにて「すてきなサムシング」展を開催します(2012年1月20日から2月1日まで)。日常生活で気になったモチーフや場面、言葉などを描きとめておき、絵の中で構成して凝縮させていくのがアイハラさん流の創作作法なのだとか。今のスタイルに行き着いたストーリーや将来の目標についてお話を伺いました。

photo : Kenta Nakano


 

手で描く自由に、コラージュの表情をミックス

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アイハラさんの絵はコラージュもミックスされていますね。

アイハラチグサ(以下、C):
画材としては、アクリル、水彩インク、コラージュした紙などを組み合わせています。その3つの要素を使うというのはだいたい決まっているんですが、あとはあまり決めずに描画エリアの中で構成していきます。パソコンは使いません。薄い紙を切り貼りしたりしてテクスチュアを出しています。セツ・モードセミナーに通っていた頃は水彩絵具だけで描いていたんですけれど、自分の描きたい絵と水彩があまりマッチしていない気がしました。もうちょっと画面に厚みを出したいなと。いろいろ試行錯誤しながら今のスタイルになりました。コラージュのいいところは、直しがきくところ。こういう人物を描きたいと思っていても配置が決まらない時とか、後から足したい時にやりやすいんです。輪郭線をシャープにできるし、テクスチュアを入れたい時には便利なので、最近はずっとコラージュを取り入れています。

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イラストレーターになったきっかけは?

C:
母は百貨店の宣伝部でデザインの仕事をしていましたし、絵に理解のある両親の影響が大きかったと思います。高校を卒業してから専門学校でグラフィックデザインの勉強をしました。もちろんパソコンを使って広告を作る課題をやったりもしましたが、私はやはり手で描きたいと思ったんです。最終的に手で描くほうが早いということもありますし(笑)。セツに入ったのもすごく大きかったですね。よく知らないまま入ってしまったのですが、周りはイラストレーターを目指している方ばかりだったので、自然な流れで私も作品ファイルを作り、独立して活動を始めるきっかけになりました。大阪のdigmeoutがやっていたウェブ上のアーティストオーディションページに応募してコメントをいただいているうちに、メンバーに入れていただけることになり、今はそちらとも提携しながら広告などのお仕事をしています。

日常観察の落書きを、ぎゅっと絵に

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「すてきなサムシング」展は、どういう内容になりますか?

C:
基本的には大阪の展示(2011年12月、DMO ARTSにて)の巡回展ということで、コンセプトやテーマは同じものと考えています。ただし会場の雰囲気がまったく違うので、GALLERY SPEAK FORならではの展示を構想して、大阪とは違った受け取め方をしてもらえるようにしたいと思っています。タイトルは、実は昔、家電量販店のCMソングでそういうのがあったんですよ(笑)。そのコピーが面白くて、いつか何かに使いたいと思っていたんです。そんなふうに、言葉から膨らむイメージも大切にしています。歌詞の一部分、小説のタイトルとか人が言ったことなど、けっこう普段からなんでもメモしていて。絵のタイトルにすることもあります。

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絵の世界は奇想天外なのに、細部がとても具体的ですね。

C:
私は日常の中で気づいたこと、見かけたおかしなものなどを描きとめておくんです。チラシの裏などに落書きする程度のものですが、それを絵の中で組み合わせていくと面白いものに発展することが多いですね。電車に乗って外を見ているだけでも、いろんなモチーフが浮かびますから、それをぎゅっと絵の中に入れたり。「すてきなサムシング」みたいに、言葉の面白さから絵の細部に広げていくこともありますし、自分でぼんやりした場面を想像して描き始めるパターンもあります。あと、色味は私の絵の大切なポイントのひとつと言えるのかも知れません。大阪展では、見てくださった方の7〜8割くらいの方が絵の色についてコメントしてくださいました。自分ではそれほど意識していなかったんですが、考えてみると、描いた絵が自分で最終的に気に入るかどうかというのは、すごく色合いに左右されているんだなと思いました。

プロダクツや衣服にマッチする絵も

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雑貨や衣服にも展開できそうな絵が多いようです。

C:
絵を描く時、画材は絵の具ですけど、Tシャツなどの布地にプリントする絵やマグカップにする絵の場合、なじむ画材・手法はそれぞれ違うような気がしています。Tシャツだからこそかわいいデザインだけど、それが平面の絵になったらどうか。そういうことも前々から考えているところはあって。自分は色面で絵をつくるタイプですけれど、例えば線画で描いて自分の世界を出せるかどうか。そういうことにも興味があります。やってみないと分からないところも多いので、今はどんどん新しいものを作っていきたいなと思います。

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今後の予定や、長期的な夢があれば教えてください。

C:
お仕事の営業に行く時に100%の自信をもって、これ見ていただけますか、と言えるような完成度の高いポートフォリオを作りたいと、ずっと思っています。途中で画風が変わったり、いろいろな絵から刺激を受けたりして、まとめ切れないんです。だからそれを作ることが当面の目標です。また、以前アートブックフェアに出品するためZINEを一冊作ったことがあったのですが、それも楽しい経験だったので、また新しく作りたいと思っています。自分の作品を描くのと同時に、お仕事として成立するものも描かなければいけないですし、いろいろ多方面に絵が展開していけるように考えていきたいです。小学生の頃、母が持っていたザ・ビートルズのアニメ映画「イエロー・サブマリン」を見て、すごく好きになりました。あの世界というのは、どこか最終目標みたいな感じがあって。目指していきたい夢ですね。

アイハラチグサ(イラストレーター)

1984年、東京生まれ。日本美術専門学校デザイン科、セツ・モードセミナーを卒業後、フリーランスのイラストレーターとして活動を開始。2009年、cwc主催「チャンス展」にてファイナリストに選ばれ「チャンス展&VISION展」(代官山 Junie Moon)に参加。「haco.」などの雑誌や絵本で挿画を手がけている。2010年、自主制作のZINE「WHAT A NICE SOMETHING」を発表。2011年12月に個展「すてきなサムシング」(大阪 DMOARTS)を開く。

http://www.geocities.jp/ch1g3/


「すてきなサムシング」展についてはこちら
http://blog.galleryspeakfor.com/?eid=565


アイハラチグサさんの商品はこちら
http://www.galleryspeakfor.com/?mode=grp&gid=219634