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村上実帆 | Miho Murakami

動物や、は虫類、植物などをモチーフに、甘美な野生オーラがぷんぷんとするようなグラフィックアートを作り続けているのが、村上実帆さんです。日本や欧米ルーツとも違った複雑な味わいのある彩り。アイコニックな強さはあるのに、よく見るとコラージュによるアナログな楽しさや、プリントされた紙の質感など繊細な魅力が隠された、イメージに奥行きのある平面表現ばかりです。昨年、原宿で開いた初めての個展「BEAT」(LAPNET SHIP)で注目を集めた新鋭ですが、贈り物として絵を買いたいという方や固定ファンが多く、多方面からコラボレーションのオファーも次々と届いています。その村上さんが3回めとなる個展「REPOSE」を、GALLERY SPEAK FORにて開催することに(2012年10月12日〜24日)。この機会に、モチーフを選ぶ基準や、絵から醸し出される野性的魅力について色々とお話を伺いました。幼少期、すでに絵の仕事をする将来像を思いえがいていた、という彼女。アナログとデジタル、都市と野生、平面とプロダクツなど、相反する地点の間に独自のオアシスを見出していく才能を感じました。

photo : Kenta Nakano


 

影響を受けた、チェコのクリエイターたちのアナログ感覚

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村上さんの絵は、コラージュをプリントしたものですね?

村上実帆(以下、M):
そうです。始めは手で描いたり、素材を机上で作っていきます。色ベタに見える部分は色紙の切り貼りによるもので、その色紙自体も自分でアクリル絵具を紙一面に塗っています。そしてそれらの素材をコラージュしますが、手でやる場合もあれば、スキャンしてコンピュータ上でする場合もありますね。スキャンで偶然拾われる影やモアレ、ムラなども面白い効果になることがあるので、それらも活かしたりしています。大学の一回生の時にはイラストレーターを志望していたので、もっとSF調のキャッチーなイラストレーションを描いていましたが、3回生になって本格的にコンピュータを使ったデザインの勉強を始めると、ほぼ写真と絵とのコラージュに注力し始めました。写真に頼るウェイトを徐々に下げて、4回生の時にほぼ今のスタイルにたどり着いたんです。自分としては、飾りたくなる絵を意識して作っています。プリント作品が主体で、アートというよりインテリアを選ぶ感覚で見ていただいても嬉しいですね。

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アーティストになったきっかけは?

M:
祖父が日本画家で、お寺の天井絵などを描いていた人だったんです。ふたりの姉と一緒に3人で絵を描いて見せ合ったり、祖父に見てもらうということは、私が幼稚園に入る前からやっていました。母も、自分では描きませんが、フリーダ・カーロやグスタフ・クリムトなどが好きでアートに理解があり、絵本や映画の話をしてくれますから、そうした身近な環境の影響が一番大きいです。高校では週8時間、美術をとって、迷わず美大に進学しました。大学時代に観たセルゲイ・パラジャーノフ監督の映画からは、すごく影響を受けましたね。画面全部が絵画的。神秘的な感じもあり、ダークで怪しい感じもあって衝撃でした。チェコといえばヤン・シュヴァンクマイエルも。チェコってアナログ色が強く、アニメとかコラージュとか手作り感が濃いですよね。それが今のCGばかりの世の中でとても新鮮に見えて、自分でもコラージュを勉強し始めるようになりました。画家だったら、ジョージア・オキーフやフリーダが好きです。女性らしさの中に野性的な強さががありますから。

野生の匂いやインパクトを求めて

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動物や神々の像など、絵のモチーフが個性的ですよね。

M:
自分の目で実際に見たものを描くのではなくて、想像です。アフリカに行ったからトラ、ではないんです。むしろ、行っていないから選ぶのかも。何か深いコンセプトがあって動物を選んでいるわけではなく、ただ好きでずっと描いているんです。想像とアレンジを加えやすいし。風景や人物は、今はほとんど描きません。そして動物といっても、一般受けしそうなウサギや犬や羊などは選ばないですね。あまり回りに合わせようと思わないのかも(笑)。もっとワイルドで野生の匂いがしそうな動物、画面がしまるもの、インパクトがあるフォルムを選んでいるのかも知れません。は虫類もよく描きます。エジプトのものを見るのが好きなんですが、そういう影響もありそうです。

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プリントしている紙にも特徴がありますね。

M:
大学生の頃、昔の(古びた味のある)ポスターみたいな作品を作ろうと紙を探していたところ、銅版画をやっている大学の先生にハーネミューレ紙を薦められました。肉厚でちょっと黄ばんだ古紙っぽい感じ。これにインクジェットで印刷してみたらどうなるのかなと何気なく試したんですけど、インクのノリも良くて、版画でもないしシルクとも違う。その仕上がりが気に入って使い続けています。また、和紙にも印刷できる工房があったのでやってみたら、それも面白くて。透け感があり、光を当てると表情が変わるのも奥深いですね。デジタル画像で見ているものと、プリントするのとではだいぶ違います。想像していなかった感じで出るのも、逆にすごくよい効果であれば活かすようにしています。

ワイルドでクールだけど、癒される空間を

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今回の展覧会は、どのようなものになりますか?

M:
前回の展覧会が「OASIS」だったので、その延長にあるシリーズという位置づけです。休息(REPOSE)というタイトルですが、野生動物が誰にも邪魔されず、自分のペースでのんびりしている、ワイルドでクールだけど凪(なぎ)の状態。そんな雰囲気を空間全体で出せたらいいなと思っています。見に来られた方も、ゆったりした気分になってくれればいいですね。基本的にはこれまでの代表作を展示しますが、プリントしたものに手描きで一部にだけ金をのせたり、シルクっぽく手を加えたりした新作も加えようと思っています。物販面では、この展覧会とリリース時期を合わせてもらったBEAMS-Tとの、コラボTシャツやパーカーをぜひご覧いただきたいですね。今回はメンズだけの型なんですが、ウェアとして街に出ていくことによって、絵に全く違った印象と広がりが生まれるので、どのように着てもらえるか私も楽しみです。

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今後の予定や、中期的な目標について教えてください。

M:
は虫類好きから派生して、恐竜モチーフのシリーズを準備中です。他にも、色をほとんど使わないモノクロームのシリーズなど、構想は色々あるんです。また、来年の秋ごろにパリで開かれるグループ展に参加する予定です。日本とはだいぶ違うマーケットですし、厳しいコメントもあるはずですが、勉強のつもりでチャレンジします。私はもともと平面の絵だけではなくて、衣服や食器などモノへの展開や、音楽とのコラボレーションなどもしてみたいと思っていたので、今後はそうしたお仕事の数を増やしたり、展開できたらいいなと思っています。

村上実帆(グラフィックアーティスト)

1987年、神戸市生まれ。京都精華大学デザイン学部ビジュアルデザイン学科卒。在学中から作品制作を始め、2010年より東京を拠点に活動中。2011年に個展「BEAT」(原宿 LAPNET SHIP)を開き好評を集めた。以後、「OASIS」展(2012年、代々木上原 Fireking cafe)を開き、米・ロサンゼルスの「Licensing International Expo2012」に参加するなど、精力的に作品をリリースしている。2012年10月に、BEAMS-TからコラボTシャツとパーカーを発売予定。

http://nazuki.pupu.jp/


「REPOSE」展についてはこちら
http://blog.galleryspeakfor.com/?eid=584