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竹馬紀美子 | Kimiko Chikuma

写実的でニュートラルに見えて、竹馬紀美子さんの描くモチーフは意表を突くとんがり方。躍り上がるような長い髪、マカロンが飛び交うシュールな場面設定など、虚と実の入れ替わるような「劇場型」ポートレートは、一度見ればいつまでも印象に残ります。甘いタッチのカラーバランスは口当たりがいいですが、細部への描き込みは緻密で、絵具の表情もリッチ。アバウトなだけではない実質感が充填されたファンタジーは、見るものの心にアンカーをしっかり打ち込む面白さがあります。ずっと福岡に在住し活動してきた竹馬さんですが、このたびGALLERY SPEAK FORにて開催する「Art Hair」展(2013年8月30日〜9月11日)が、東京での初めての個展に。近作をほぼ全て福岡から持ち込んで構成する、自己イントロダクション的な展示になりそうです。なぜ、シュールなヘアスタイルの絵を描くにいたったのか、モデルになっている若い女性たちは誰なのか。初めて代官山にいらっしゃった彼女に、そんな素朴な疑問から伺ってみました。

photo : Mach


 

好きなものを素直に、自己ルールは厳守

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絵の制作手法と手順について教えてください。

竹馬紀美子(以下、K):
全て油絵具で描いています。日本画や版画、アクリル絵具など、学生時代からいろいろやってみましたが、絵具に重みがありますし、マットではなく光った仕上がりが好きなので、油絵が自分の表現に一番合うなと思いました。まず画用紙に鉛筆できちんと細かい部分まで描きこんで、こういうイメージで描くんだと頭と体に覚えさせてからキャンバスに向かうんです。その下書きも、鉛筆画としてそのまま展示できそうなほどに時間をかけて描き込みますし、油絵でも、緻密さにこだわっています。例えば人物の髪も、平筆で何本かばさばさっと描いてニュアンスを表現するのではなく、細い筆で一本ずつ描きます。それは自己ルールとして絶対ですね。あとは人物の「目ぢから」にも気をつけています。光彩まで細かくしっかり出せるようにと。そして基本的にはパステル調で、柔らかい印象を出すというバランスが私らしさになっていると思います。

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どのように絵の道に入り、今の画風にたどり着いたのですか?

K:
子どもの頃から近所の絵の先生に習っていたのが、最初の大きなきっかけですね。高校も芸術系コースを選び、芸術系の大学を経て大学院に入った時に、私はこれをやっていくんだという気持ちが強くなりました。描くテーマは一貫して女性像です。ただ、学生の頃から2年ほど前までは抽象画でした。抽象画には、絵具のぶつかりあい、垂らしなど偶然性による面白さがありましたが、東京の画廊でたくさんの絵を見た時に、私も具象画を描いてみたいと思うようになったんです。もともとマンガやアニメも好きでしたし、中学生の時は絵描きか漫画家になりたいと思っていたくらいでしたから、好きなものを素直に描こうと。ただ、移行期のはじめには苦しみもありました。具象画では、崩すといってもそれなりの崩し方がありますし、配置にも欠かせないバランスがあります。しっかり描き込むことも必要で、わずか5センチ幅くらいの髪の毛の部分に、2時間も3時間もかかったりするんですけど、今は苦しんだ分だけいい作品ができると思えるし、それが楽しみになってきました。女性を描くのは、女性のS字型のラインを筆で表現するのが好きなんだと思います。今は全身でなく顔だけのものが多いですが、とにかく女性らしい線が好き。男性でも細身で中性的な感じならいいかなと思いますが、基本的には女性ですね。

教室で得るインスピレーションが励みに

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どういう時に、絵のアイディアを思いつきますか?

K:
創作のかたわら、高校と大学で絵を教えているのですが、アイディアは学校にいる時に得ることが多いんです。教室という空間自体が創作するための空気感になっていますから、そこで自分も感覚が研ぎ澄まされているのも大きいですね。最も刺激を受けられるのは、生徒たちと話している時。流行とか、色づかいの好みなどをなんとなくつかめるし、それを自分の作品に取り入れてみようかと思ったりします。モデルになっているのも実はたいてい生徒なんです。じっとしていてもらって下絵を描くこともありますし、写真を撮らせてもらってから描くことも。みんな、仕上がった絵を見せるとすごく喜んでくれるので、それが私の励みにもなるんです。

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女性の髪がデコレーションされているシリーズが印象的ですね。

K:
女性は髪に対して特別な思いがありますよね。上下左右、どのようにアレンジしても髪の毛はきれいだと思っているので、その動かし方にこだわってみようと思ったんです。とっぴな髪型、あり得ないスタイルを描いてみたらかわいいんじゃないかなと。あれもきっかけになったのは、学校で生徒たちと一緒に描いていたアイディアスケッチでした。ポスターを描くときに、こういうふうに描いたらとか、人物はこういう構図にしたらと指導している途中、髪の毛をありえない方向に描いてみたんです。尾形光琳の紅白梅図屏風をイメージして、髪を横に動かしてみたんですよ。私も意外にいいと思ったのですが、生徒たちが口々に「かわいい」と言い出して。じゃあ、ここにネックレスもつけたら、などと盛り上がりました。そうして出来あがったのがシリーズ最初の「素に飾る髪飾り」という絵です。私にとって学校は、絵を教えつつ生徒たちからもインスピレーションをもらえる、本当にいい環境なんです。

時代感を受けつつ、画力を込めて

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今回の展覧会の内容は、どのようなものになりますか?

K:
風変わりなヘアスタイル、それをあり得ないものと組み合わせた作品をシリーズとしてやっていきたいので、今回は「Art Hair」と名付けてコレクションしてみたいと思います。2年前から今にいたる流れを全て見ていただきます。福岡では継続的に個展をしていますが、タグボートアワードでの入選や販売実績も励みになり、東京で初めての個展に踏み切ってみようと思いました。マカロンが飛び交っていたり、異質なモチーフが入り込んでいる絵でも、そういう組み合わせを今、面白いと受け取ってもらえる時代感があると思います。でも面白いだけではなく、絵画のセオリーを踏んで、影や回り込みにいたるまで、自分の持てる画力を込めてしっかり描いている点も見ていただければ嬉しいです。

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今後の目標をお聞かせください。

K:
まずは今回の東京での個展というのが大きいステップですね。今までどおり公募展にも積極的に出し続けていきたいと思っています。描き続けることが大事だと思っていますし、私の絵を知ってもらえるような発表の場を探していきたいと思っています。彫刻など立体作品を手がけることにも興味があります。最近、初めて紙粘土で作ってみたらとても面白かったので、これから少しずつ作っていきたいですね。

竹馬紀美子(アーティスト)

1976年、福岡県生まれ。九州産業大学大学院芸術研究科を卒業後、本格的に創作活動を開始。福岡市を拠点に新作を発表しつつ、各地のグループ展や公募展などにも精力的に参加している。2013年2月に個展「Re:born」(福岡・Galerie RECOLTE)を開催した。その他、上野の森美術館大賞展(2011年)、ACTアート大賞展(2012年)、シェル美術賞展(2012年)などに出展。第8回タグボートアワード入選。田川市美術館、九州産業大学ほかで作品収蔵。

http://chikuakimi.jimdo.com/


「Art Hair」展についてはこちら
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