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yutaokuda

0.03ミリからという極細のスミの線を使って対象を描画する、yutaokudaさん。動物や昆虫、植物まであらゆる生物を、まるで図鑑の絵のように精緻でクールな視点から捉え、長大な時間を費やして日々描き続けています。2016年にアーティストとしての活動を始めた新鋭ながら、その前職は有名アパレルメーカーのデザイナー。独特なアングル、余白の余韻や構図の妙などを備えたスタイリッシュな絵の魅力はそこからも醸し出されているのかも知れません。猛烈な勢いで個展を繰り返し、どんどんファンを獲得している彼の魅力を伝えるべく、GALLERY SPEAK FORでは、2017年2月の「ARTIST OF THE MONTH」に選出。それに合わせ、アーティストへの転身の理由や美意識の源泉について、ご本人に詳しくお話を伺いました。

photo : Kenta Nakano


 

正対称にはなり得ない、肉筆の美しさにこだわり

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絵はどのような手法で制作していますか?

yutaokuda(以下、O):
イラストレーションボードに、COPICマルチライナーというペンを使って描いています。0.03〜0.1ミリという細い線画が描けるこのペンを選んだのは、僕がファッションデザイナーからアーティストへ転身した事情から。デザイン画にはロトリングのようなミリペンを使うことが多いんですよ。また、小さい頃から細かい絵が好きだったので、何か細いペンを使うというのは既定路線のようなものでしたね。下書きはしませんが、シルエットのアタリは鉛筆でとります。花であれば定規できれいな円を決めて、その中に描線を埋めていく感覚。全て目視で手による描画のみで、グラフィックソフトによるトレースなどは使いません。左右対称のモチーフが多いですが、肉眼と手でやっている以上、絶対に正対称にはならないじゃないですか。僕はそれこそが美しいと思っているので、トレースだったり、光を当ててなぞったりはしないですね。ただ、仕事でプロダクトを描くような場合には、おさえるべきフォルムを外さないようにトレースしたりはします。今、基本的には「カラフルブラック」(Colourful Black)というコンセプトのもとに絵を描いていて、黒一色のなかで、いかに色彩を表現するかということを意識しています。制作に要する時間は、A3サイズくらいの作品では、約70〜100時間。一番大きなサイズで約300時間くらいですね。

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アーティストになられたきっかけは?

O:
小学生の頃、自由帳にとても細かい迷路を描くのが好きでした。その頃から今の片鱗はあったようです。高校時代までは普通だったんですよ。特に美術系の高校に行っていたわけではなく、けどやっぱり絵は好きだったんです。服も好きだった。進路としてファッションデザイナーかアーティストと考えた時に、ファッションデザイナーのほうが職業としての可能性があると思ったんです。ファッションの道に進んだ後も、絵は好きで描いていましたが、仕事にしようとは一切考えませんでした。しかし入社後5年くらいすると、周囲でも転職者が出たり、動きも変わってくるじゃないですか。本当にずっとファッションをやっていたいのかなと思い始めたときに、同じタイミングで知り合いの個展などが重なって、そのまぶしさに嫉妬するところなんかも出てきた。そもそもファッションのなかでも僕は、柄が好きでデザイン画が好き。つまり結局、絵が好きだったんですね。そう思っていろいろと悩んでいる時に、妻から「好きなことやりなよ」と理解ある一言をもらって、すごくふっきれた心境になりました。そんなこと言ってもらって裏切れないし、自分ができることは全部やらないと。独立を決断してから会社を辞めるまで1年くらいかけて作品をため、しっかり準備しました。イギリス留学時代に得たものも、とても大きいです。イギリスに行っていなかったら東京にも来ていなかったと思うし、人生観全てが変わったと言ってもいい。出会いもそうで、今、僕がどんどん動き続けていられるのも、その頃の出会いがあったおかげです。

好きと嫌いは表裏。感情が動くものに対して筆が動く

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「カラフルブラック」とはなんですか?

O:
自分の絵を見ていて、ひとつのペンで黒一色しか使っていないのに、ある時ふと色味を感じたんです。それが狙ってできないかと思い始めて、カラフルブラック、色とりどりの黒という作品テーマが出てきました。花や動物には、必ず色がありますが、それが黒一色で描かれていても、描かれていないはずの色を見る側の感受性が補って認識できる、そんな絵ってあると思うんです。構図や配置だったり、密度や塗り重ね方などによって、鮮やかに色を感じる絵を目指しています。黒を引き立たせるための手法を追究しつつ、ベタ塗りの多用や樹脂なども試したのですが、ほんの少しの金色が黒をより引き立たせることが分かり、ところどころ使っています。

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描くモチーフは、どのように決めていますか?

O:
それは個展でもよく聞かれて、僕も正確には答えられないんです(笑)。戦争反対などの方向性が決まったメッセージを込めているわけではなく、何かを伝えるために描くと決めたら描けなくなっちゃう。自然に湧き上がる何らかの「自己投影」であることは確かです。ただ、一貫して描いているのは生き物。僕の祖父が庭師なんですよ。子どもの頃、その家の小さい林や植栽のなかで遊ぶのが好きだった。ヒキガエルとかヘビとか、虫や花も多くて。そういう体験が自然と今、出てきているのかなと思います。描き上げるまで長い時間向き合うわけですから、好きなものを描いているのは間違いない。もしくはその対極ですね。例えばネズミが大嫌いですが、絵に描きます。嫌いなものも興味の対象なんですね。汚いと美しいは、同じくらいの情動だと思っていて、そうした感情が動くものに対して筆が動くのだと感じています。

プロダクトとしても愛される、紋章のような絵

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細密な絵を手がけるアーティストは多いですが、奥田さんの特質は?

O:
それほどたいした技術ではないとも言えます。根気さえあれば誰でも描ける。ただ、構図のとり方や余白の使い方などに特徴はあると思っています。デザインされている絵、整っていて躍動感に欠ける絵などと評されることもあるんですけど、これこそが自分のなかですごく気持ちよく収まる絵なんですよね。服のデザイナー出身で洋服の柄が好きで、そこにルーツがあるので、細密画のジャンルでも僕の絵は少し平面的でしょうね。描いていて自然と紋章チックになっていく。でも、それが僕らしさ。また、額やマットも含めてひとつの絵と捉えています。時にはいい額を見つけて、この額にあう絵は何かと考えて描くものも。プロダクトに落とし込んだ時のこと、服のここにしたらとか、パッケージはこうありたいとか想像しながら描いている部分がある。これも仕事歴からくる自然な特徴だろうと思います。

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近い将来の目標をお聞かせください。

O:
まず、2017年からはコンペに応募してみたいですね。受賞が目的ではなく、早く海外で展示をしたいと気持ちがあり、より多くの人に絵を見てもらうための方法として利用したいと思います。あとは、プロダクトとの接点。僕自身、絵を何かの商品に落とし込んだり、製品になっていくほうが喜びを感じられるので、出版物やアパレルなどとのコラボがより多くできたらいいなと思います。絵は一生描き続けます。絵は生き方であり、僕にはこれしかない。ただ、カラフルブラックというテーマが変わることはあるでしょうね。カラフルブラックは自分の表現を規定するものではないし、確立した技法でもない。人の内面を表現できる言葉って、限られていますよね。ミュージシャンだったら曲で伝わる。デザイナーだったら洋服で、僕は絵で。そこに何かを見出してくれたら嬉しいんですよ。カラフルブラックはあくまで僕を今、伝えるための手法だと思っていて、変わることはありえます。自分で自分がどう変わるかも楽しみです。絵を買っていただける方との出会いを増やしつつ、描きながら、ひとつずつ段階を踏んで成長していければと思っています。

yutaokuda アーティスト

奥田雄太。愛知県生まれ。ロンドンのイスティチュートマランゴーニ、MAファッションデザインコースを2010年に卒業後、yutaokudaとして創作活動を開始。2012年よりファッションブランド「TAKEO KIKUCHI」にてデザイナーとして勤務後、2016年退社。以後、精力的に作品制作と発表活動を続けている。最近の個展に「Colourful Black」(2016年、表参道・REFECTOIRE)など。「Independent」や「デザインフェスタ」など、アートフェアやグループ展などにも参加。Nehanne Mihara Yasuhiroなどファッションブランドとのコラボレーションも手がける。神奈川県在住。

https://yutaokuda.jimdo.com


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