ARTISTS

MARCO

ヴィヴィッドな色彩バランスと、フットワークの軽いグラフィカルな画面構成力で、数多くの女性ファッションやアーティスト・ポートレートを手がけ人気を集めている、MARCOさん。表面的なガーリーさだけではなく、その裏にしっとり張りついた、醒めた眼差しと私小説な切なさも深い魅力となっています。写真プリント作品では、目的地の実景、絶景を撮るのではなく、パーソナルの心のありようを定着させる旅のスナップを指向し、その地のオーラ、宝物のような一瞬を採取してみせる独自の話法が強み。写真展の都度、多くの来場者が訪れています。特に、2016年の「Innocent Blue」展では、新しい試みとして作り上げた水中写真の美しいシリーズを主体に発表。プリントも記録的な枚数、販売され大成功を収めました。GALLERY SPEAK FORでは、2017年3月の「ARTIST OF THE MONTH」として、フォトグラファーでは初めてMARCOさんを選出。それに合わせ、創作の舞台裏や彼女の写真観の本質について、ご本人に詳しくお話を伺いました。

photo : Kenta Nakano


 

“出会いがしら”の瞬間を求めて、非日常へ

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写真作品は、どのように制作されていますか?

MARCO(以下、M):
作品は基本的にネガフィルムによるものです。コンタックスの35ミリを使って、ラボで現像をし、自分でプリントしています。水中写真のシリーズだけはネガだと難しいので、初めてデジタルカメラで制作しましたが、作品はネガのほうがいいなあと思いますね。仕事では目標となる下絵がイメージされて準備していくわけですが、作品の場合には、そうしたことはあまり思っていない。あまり具体的な絵を先に描きすぎると、それを超えられないことはあっても、超えることはないと思っていて。もう少し衝動的に、出会いがしらで(笑)、その出会いを求めて出かける。今は小さい子どももいるので、フラフラしていても作品ができない状況ですから、なおさら、そうした時間を決めて作品を撮るモードに切り替えています。私は、いつもカメラを持ち歩くタイプではないんです。友だちと遊んでいる時や日常生活のなかで写真を撮るということが全くなくて、日常から少し離れた旅のなかなど、自分が違うモードになっている時じゃないと、作品は撮れないですね。

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写真家になられたきっかけは?

M:
写真を撮り始めたきっかけは、中学生の時、後の師匠である蜷川実花さんの写真を見て。ガーリーフォトブームにのるようにしてコンパクトカメラや使い捨てカメラで撮るようになりました。仲良しの友だちと撮りあったり、一緒にカラーコピーで本を作ったり。写真を使って何かの形にしていくことも楽しかったですね。大学に入って一眼レフを買い、3年のときに、実花さんのアシスタント募集に応募しました。壮大な夢をもって応募したわけではなく、せっかくアルバイトするんだったら、すごく興味があることをやってみたい、と。向こうも変な子が来たなという感じだったと思います。そこから今につながりました。最初は、一日中コピー取りとか、一日中お片付けなどばかり。でも本当に実花さんの写真が好きだったので、とても楽しかったですね。ベタ焼きの整理では、写真展で展示された写真の隣のカットなども見られる。超楽しくて、撮影現場に着いて行けなくても楽しい。最後にファーストアシスタントにしていただいて4年半勤め、一度も辞めたいと思ったことがなかったです。その間に学んだことが、私のスキルの半分以上を占めています。まっさらなところから実花さんのやり方を見て身につけたわけですから。プリントも、実花さんの元で学んだことをベースにやっています。デジタルについては、独立してから勉強しました。

感情と直結した撮影を、地球のどこででも

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どんな時に作品のイメージが浮かびますか?

M:
旅の写真は、行きたいところに行って出会ったものを撮って、後でまとめることになります。でも自分で思うのは、どこの国に行っても同じような写真になるということ。どの国で撮った写真か、分からなくなっちゃうくらい(笑)。例えば、メキシコに行ったからサボテンを撮る、そんな写真が得意ではないんです。壮大な景色というのも苦手。もっと自分に近いものをというか、細かいところからお土産をかき集めている感じなんですよね。夕日がきれいなところに行っても、みんなが夕日に向かって撮っているなか、ひとりで反対側を向き細かいものを撮っている、みたいな。風光明媚な旅行記のような写真は、絶対に作品にはならない。私が撮る必要があるわけではない、と考えるんですね。水中写真は、夫が趣味で買った機材を使ってみたら、面白さに気づいて撮るようになったもので、あれだけは、撮りたい絵に適した場所を探すことになります。透明度や波の具合、砂の具合や深さなどの条件が揃い、奇跡的な瞬間でしか撮れないものなので、その場所を探しながら撮るという感じですけど、それ以外で場所を探して撮る機会は、あまりありません。

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創作をする上で、決めている自己ルールがあれば教えてください。

M:
そうですね…。カラーもモノクロも撮りますし、作品はネガでと決めてたんですが、デジタルも始めちゃったし。特にないですね。でも、三脚は使わないです。もうちょっと感情と直結したい、というか。面倒くさいことがいやで、カメラもなるべくコンパクトなカメラで、ズームは使わないし、レンズも基本的に1本しか持って行きません。選択肢は減らしたい。もうちょっといろいろやればいいのかも知れないんですけど(笑)。それは仕事も作品作りも同じで、本当にいつも軽装備です。被写体との関係を、メカに遮られるのは避けたい。ポートレート撮影のお仕事であれば、時間内に撮るのも得意ですけど、ずっとおしゃべりしている感覚なので、時間がある限りずっと撮り続けていても楽しい。ずっと撮っていられますね。

新鮮だった、プリント販売を通じた交流

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過去の写真展で、どんな反響がありましたか?

M:
今まで写真展は何度かしていて、展示をきっかけに皆さんが集まってくださることが嬉しかったんですけど、2016年1月の「Innocent Blue」展で、初めて作品を販売してみて、新鮮でしたね。最初は水中写真シリーズだけの展示を構想したんですが、旅の写真なども合わせて多く展示し、いろんな方から反響をいただきました。誰のお家にどの写真が行ったかというのもちゃんと覚えているし、こういうふうに飾ってます、とお客様から写真で送ってもらったり、それは作り手としてすごく嬉しいことですよね。意外だったのは、少し通向け過ぎるかなと思っていたモノクロの写真も売れたこと。アクリルマウントの作品を作ったのも初めてでした。

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近い将来の目標をお聞かせください。

M:
また近いうちに、作品集とその展示を考えたいですね。水中写真のシリーズは、今後も撮ることがあると思いますが、自分のなかでもいまだに異色な位置づけですので、たびたび撮ることは難しいんです。タイミングも必要だし、時期も選ばないといけない。機材が自分の頭よりずっと大きくて、陸地では持てないくらい重いので、いつも浜辺まで持っていくのは夫です(笑)。旅の写真は、いろいろな構想ができるので、また写真展にしたいですね。いつか国内の地方の街でも個展ができたらと思っています。地元の松本や、もっと遠い福岡、大阪など、いろんなところで。そして、多くの未知のかたと写真を通じた交流を重ねられたら、と思っています。

MARCO(マルコ)フォトグラファー

1982年、長野県生まれ。慶應義塾大学在学中より蜷川実花氏に師事し、2008年よりフリーランスとして活動開始。雑誌・書籍や広告などのファッション、ポートレート写真の他、PVなども手がけ幅広く活躍中。写真を担当した書籍に「竹内涼真 : Ryomania」「瀬戸あゆみスタイルブック : KIDULT GIRL」「松井玲奈 : ヘメレット」他。その他、佐藤健カレンダー、広瀬すずカレンダーなど。2014年に初めての写真集「Spring Pedals by lovely hickey」を刊行した。最近の写真展に、「Lovely Hickey」(2013年、LAPNETSHIP)、「Innocent Blue」(2016年、GALLERY SPEAK FOR)。

http://marco149.com


「Innocent Blue」展についてはこちら
http://blog.galleryspeakfor.com/?eid=676


MARCOさんの作品一覧は、こちら
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