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山下良平 | Ryohei Yamashita

スプリンターやスイマー、ダンサーなど、動的なイメージやその脳内ビジョンまでを、伸びやかな筆致で表現力豊かに描き続ける山下良平さん。「Tarzan」などの雑誌や書籍装画で活躍を続ける一方、各所での展示やライブイベントでも大好評を獲得。「横浜マラソン2015」をはじめとする多くのスポーツイベントでビジュアルアートを担当するなど、広告界でもその才気を存分に花開かせてきました。GALLERY SPEAK FORでの個展「MOMENT」(2014年)が記憶に新しく、ますます目覚ましい進展が続きます。そんな山下さんを、当サイトでは2017年4月の「ARTIST OF THE MONTH」として注目。モチーフの色や形だけを描きとめるのではなく、そこに動きが加わることで増幅されるイメージを見るものへ波動のように伝えたい。その心技体そろったアスリート的な制作姿勢と、作風が形成されるまでのストーリーについて、ご本人に詳しく伺いました。

photo : Kenta Nakano


 

長考後の描き込みは、指もツールにして一気に

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絵はどのようなプロセスで制作されていますか?

山下良平(以下、R):
ほとんどの場合、キャンバスにアクリル絵具で描いています。まず事前の長考が大切なんです。仮に個展が3ヶ月後にあると決まったら、ほぼ2ヶ月はイメージングに当てるくらい。頭の中でイメージしたものをコンピュータなど別のツールでじっくりシミュレーションし、色や構図などを練り上げて、これだと決まった時点で一気にキャンバスに向かう。短期に集中して一気に描き上げるため、画材はアクリル絵具が一番合います。各プロセスで乾燥を待つ時間は短くする必要があるんです。筆のほか、ペインティングナイフも多く使います。指で描くことも多いですよ。動きなどをダイレクトに表現するために、指はすごく使います。絵具をキャンバスへ垂らし、そこからペインティングナイフでおおまかな構図をぱぱっと描いて、指で素早く滑らせるように刀を描いたりとか。指のちょっとした動きや指紋による筋などは、他のツールには置き換えられません。

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アーティストになられたきっかけは?

R:
絵を描くのはもともと好きでした。見せて誰かをびっくりさせたいとか、あげて喜んでもらえるのが嬉しいとか、絵は僕にとってそういうものだったと思います。足が速かったので小学校から陸上部に入り夢中になって走っていましたが、家では絵を描きプラモデルを作ったり。でも、陸上経験と絵が結びつくのは相当あとの話です。大学では映像を学びつつ、絵を人に見せたいという気持ちは変わらずに、福岡の路上に店を出し絵を売り始めました。今ならネットでできることですが、約20年前はストリートでの表現活動が盛んでしたね。卒業後も図書館で仕事をしながら、週末はイベント会社から派遣される形で路上で絵を描くアルバイトも。お客さんのリクエストでコピックマーカーを使って描く、一般的な似顔絵描きです。似顔絵もなかなか奥が深い世界で、世界大会に出させてもらったりテレビ番組にも出たり。その場で描いたものへの反応を得ることを繰り返し、度胸がついて人脈がものすごく広がりました。そのイベント会社が関東に支店を出すので、そっちに行ってみないかと誘われ、上京したのが28歳の時。それからホームページで情報発信を始め、絵を描く仕事が細々と始まることになります。大きな転機は2008年に、大阪のdigmeoutでやっていたアーティストオーディションに応募したこと。ディレクターの谷口純弘さんの目にとまって個展を開いたり、大きなクライアントともお仕事ができ、だんだんに画風が形成されました。

「動き」も「形」に。見る人を触発したい

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どんな時に作品のイメージが浮かびますか?

R:
日々の生活では8割がた、絵のことばかり考えています(笑)。「動き」からの触発を自覚できたのは、digmeoutのオーディション以降。僕の絵を見たみんなから、動きや躍動感がある絵だと言われて、あ、そうなんだと気づいた。陸上の経験や映画の勉強などがここで結びついたんだと感じたんです。例えば陸上競技で走っている時は無心です。脳の状態が異次元へいってハイになっている。そういうことを考えながら描くと、絵がとても気持ちよかったんです。気持ちいいという感覚が、ふと脳をよぎるときや、その中に入り込んでいる時にビジュアルイメージが浮かぶんですよ。タテ方向にサッと動いているとか、ヨコにガーッと流れている、光がバーッと来るとか…。それが僕の創作の原動力になっているんじゃないですか。街を歩いていてもインスピレーションは得られます。道を走っている人、アスファルトの照り返しからも刺激がインプットされるんですよ。

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描くモチーフをどのようにして決めていますか?

R:
まず走る人は、結局好きなんでしょうね。自分が陸上競技をやっていたので一番、動きの内面から知っているので。知らない動きは描けないですよ。腕を振ったときに力がどう作用するかとか、体験の裏付けがある。クライアントの依頼からの刺激も大きいです。競馬や競輪のお仕事もいただきましたが、馬を描くなんて自分では思いつきませんでした。馬は奥深いですよ、足の運びとか。馬のディテールや筋肉などを詳細に描ける方もいらっしゃいますが、僕の場合は「動きを含めた形」への興味。「動く」ことによって「形」がどう変化して見えるか。僕の絵のテーマはそこだと思っています。そして、見た人が触発されることが大切。だから描くものの振り幅がすごく広くなります。クロッキーのように極限まで表現を削り落としたもの、逆に場を楽しませたりバラエティに富んだもの。どちらも人の心が動く。いろんな絵を描くんだねと皮肉を言われることもありますが、それら全て含めて自分の作品なので、どちらかをやめるということはないですよね。

こだわりなかばにやることが、僕のこだわり

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創作をする上での自己ルールがあれば教えてください。

R:
コンピュータは構想のために使いますし、鉛筆も使います。意外と自分のこだわりはあるんですけれど、実際に絵を見ていただく人には関係ありません。仕上がりが結果的に人の心を動かすかどうか、なので、「こだわりなかばにやる」ことが僕のやり方ですね。見ている人がいろいろな想像を膨らませてくれればいいと思います。山下良平だからサムライしか描かない、などというのは表現を狭めることになってしまう。ひとつのタイプを描くことで、もうひとつのタイプが豊かになることもあります。自分の心身が健康であることもすごく大事ですね。病んでいる時は何も描けないですから。また病むこと、描けないこともある意味で必要なんですよね。そういうときには旅行に行ったり、走ったり、ぼーっと映画を観たりとか、何もしない。そこから刺激を受けたり、自然と気持ちが湧き上がって突破口が開ける時には、もう描きたくて仕方ない。すごく手が動くわけです。

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将来の目標をお聞かせください。

R:
今後はまず絵の力をつけたいですし、今のままでいいんじゃないかと思うんです。今のまま色んな人と出会って、出会いによって次の道が拓ける。作品を通して人と出会うというのが僕のなかでは一番大事ですね。2016年の「ALIVE!」展は、音と絵がダイレクトにリンクするようなものにできました。絵が音楽の脇役になるのではなく、お互いが真横にいたままセッションできた。それも出会いで道が広がったからです。「横浜マラソン2015」のビジュアルを担当させていただきましたが、最高峰のスポーツイベントとして東京オリンピックもありますし、アスリートやそれを見る人々の気分をあげるような絵にたずさわりたいですよね。そのためにもますます表現を磨いていかなければ、と思っています。

山下良平(画家 / イラストレーター)

1973年、福岡生まれ。九州芸術工科大学で映像を中心としたビジュアルコミュニケーションを学び、ストリートアート活動を経て、2002年、横浜に拠点を移して画家 / イラストレーターとなる。「Tarzan」などの雑誌、CDジャケット、ナイキやソニーなどのビジュアル制作を手がける一方、ライブペインティングや国内外のグループ展などにも精力的に参加している。2014年、個展「MOMENT」を福岡市・TAG STA GALLERYと、GALLERY SPEAK FORにて開催した。「横浜マラソン2015」の公式ビジュアル制作を担当。アートフェア「UNKNOWN ASIA」(2015年)にて「イープラス賞」受賞。渋谷・eplus LIVING ROOM CAFE&DININGにて「ALIVE!」展(2016年)を開催。

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