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村田なつか | Natsuka Murata

オオカミ、キツネ、ウサギやリスなど生き物たちの佇まいとしぐさを、大自然の情景で包み込むように描写する村田なつかさん。透明水彩の独特な滲みと、マスキング技法を駆使して仕上げる画面からは、色彩が優しく発光し目に染み入るかのようです。絵本の話法、動物イラストレーションの王道を受け止めながら、「可愛らしい絵」にとどまらず、鉱石と動物たちとのクロスイメージ、ハンバーガーにサンドされて眠る動物など、ときにはシュールな楽しさも。その創作の全体像は、GALLERY SPEAK FORでの個展「けもの」(2016年9月30日〜10月12日)で初めて示され、大好評を集めました。絵をウェアラブルにするのも彼女のテーマ。動物絵柄のピンズは今や定番の人気商品で、マスキングテープや缶バッジなど雑貨バリエーションも充実してきました。そんな村田さんに、これまでの経験や試行錯誤などのストーリーについてお話を伺いました。水彩絵具と一緒に絵筆にのせられているのは、動物たちへの愛と、絵を見てくださる方たちへの言葉を超えた思いやりのようです。

photo : Kenta Nakano


 

感受性が強すぎた中高生時代。描くことが支えに

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絵はどのようなプロセスで制作していますか?

村田なつか(以下、N):
制作しているものには、おもに2種類あります。食べ物や鉱石、動物などをはっきり描くものと、背景があるもの。背景があるほうでは抽象的なイメージが多く、ラフができたら、ある程度のあたりをつけて、思うがままに描いていくことが多いです。動物そのものがメインなものは、まずその動物の骨格をきっちりおさえたラフを描きます。自分も犬を飼っていてよく分かるのですが、骨格やしぐさがおかしいとその動物が好きな人は、違和感を感じていやな気持ちになりますから、動画や図鑑などをもとにスケッチしながら、ここだというポーズを見つける作業をしています。動物園に行って誰もいないところで写真を撮ったりもしますよ。でも、あまり都合よくは動いてくれないものですね。そして、そのラフをトレース台にのせ、画用紙を上に貼って水彩で描いていきます。鉛筆のうえから水彩をのせてはきれいに色がのらないですし、下描きの勢いを失わず、水彩の筆跡だけ残るように。あとは水彩を乾かしながら仕上げていくんですけど、最終的に一番大事なのは、光の加減。少し滲みを足したり、白を使って一番明るいところを作ったりして最終的な仕上げをします。水彩では修正が効かないので、ダメだと思ったら描き直しです。

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イラストレーターになられたきっかけは?

N:
中学と高校時代に、長い不登校の時期を経験しました。中学校は最後の1年くらいしか行けず、高校は最初の数ヶ月しか行けませんでした。自分の感受性が強すぎたのかも知れないですね。他人の視線が気になりすぎて、精神的な「半引きこもり」みたいに(笑)。心配した母親は、いろんな美術館や田舎の風景などを見せに行ってくれました。子どもの頃から絵を描くのが好きでしたし、そういう悩み多いなかでも描くことだけは続けていて、たまに学校に行くとき美術の授業だけは参加できていたので、自分は絵を描いていれば大丈夫そうだな、といううっすらした救いの感覚はありました。このまま大人になったらまずい、と思い、17歳のとき両親にお願いして、1年間だけ留学でニュージーランドへ。言葉はあまり通じませんでしたが、そこでも美術の授業では先生や友達が寄ってきて、いいね、と言ってくれて。自然の風景や海の絵がほとんどでしたが、描くことでつながっていく何かが自分のためになる、と思えるようになりました。帰国後は美大に入る目標をむねに、予備校で学んでから東京工芸大へ。大学では、めちゃくちゃ楽しかったですね。絵が好きな人たちが集まっているし、谷口広樹先生の授業も楽しく、中学から高校までの全てをそこで経験したようでした。そこからは多くの方たちとの出会いやアドバイスを受けて、今に至っています。

小筆で毛を丹念に描く時間が幸せ

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描くモチーフが動物に定まってきたのは、どうしてですか?

N:
帰国後、美術予備校に通っていた時から、絵本をよく見ていました。いわむらかずおさんや、林明子さんなど児童向けのものが多かったのは、不登校の影響で私の感性が中学生で止まっていたからなのかな、と(笑)。大学時代にははじめ、テーマなどを決めずに、風景や女の子の絵を描いていました。好きな作家さんの絵本に女の子が登場するので、自然な流れでしょうね。動物モチーフは、大学生活半ばくらいで出てくるんですけど、大学生活も終わりが見えてきて、どうしようと思いつつ、とにかく手を動かさないといけなかったので、犬とか猫とかキツネとかがいっぱいいるような連作を描いていたら、周囲から、かわいいんじゃない、と好評で。犬は家で飼っていましたから、身近に観察対象があって取材もできるし、描けるかもと思って、どんどん描いていったら、このポーズも、このポーズも描ける、と。風景の中にもキツネがいたりオオカミがいたりすれば、心象風景としての構想になりそうで、そこから一気に自分の絵の軸が定まりましたね。

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動物の種類や、鉱石、食べ物との組み合わせなど、描く対象をどのように選ぶのですか?

N:
まず、私は毛を描くのが好きだから動物、というのがあります。小筆で毛を丹念に一心に描いている時間が一番幸せで、それが始まりだったので、毛量の多い動物が始めからメインでした(笑)。オオカミとかキツネとか、冬毛になりそうな子たち。海の生き物もいいなと思うんですけど、どうしても毛の多さで選ぶと、ペンギンを描いちゃったり。鉱石や食べ物と動物の組み合わせについては、学生時代に始めた雑貨づくりに始まりがあります。絵を雑貨にする、形に落とし込むとなると、ただかわいいだけだと使ってもらえないですよね。シンプルでありつつ、少しだけ「あれっ!?」と面白い部分があると、おしゃれな人が身につけたり、小さな子がかわいいと思ってくれそうだなと思ったので、鉱石を組み合わせてみたり、食べ物の上にのせてみたり、ちょっとシュールな感じを出したいとやっているうちに連作になりました。鉱石は、水彩でもきれいに描け、映えるんですよね。

雑貨を通じたお客様との近い距離感を大切に

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オリジナルグッズもたくさん制作していますね。

N:
ピンズは今、全部で60種類ほど。季節によって入れ替えたりしています。大学3年のときに、あるデザイナーさんが企画したレターセットの展示会に出品してみたら好評で、次々と誘っていただけるようになりました。ピンズなどアクセサリーを作ることになるとは思っていなかったのですが、学校で課題をいただくように、次はこういう展覧会、次はこれ、と誘っていただくうちにピンズになり、お客様に買っていただけることを励みとしながら続いてきました。自分がいいと思うものが他人にも好評だと、嬉しいですよね。そうして雑貨がお客様との接点、知り合うきっかけになると、お互いの距離がすごく近くて、相手をいやな気持ちにはさせたくない、あまり押し付けたくないという気持ちになります。さりげなく、幅広い層の方々に何気なく使ってもらえるものにしたいと思い、できるだけ客観的な目を持とうと努力しています。ファッション誌とか洋服屋さんも、この中に私のアイテムがあったらどうだろうかと、そうした目でよく見て参考にするようになりました。

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近い将来の目標をお聞かせください。

N:
Loftのイベント「POPBOX」では継続的にかわいがっていただいています。2017年9月には初めて関西のお店で公開制作もしてみました。そうして、雑貨方面でずっと引っ張っていただいているなかで、私はイラストレーターなのか雑貨制作なのか、絵画なのかで悩んでいたんですけれど、GALLERY SPEAK FORでの「けもの」展(2016年)は、素晴らしい体験、ターニングポイントになりました。広い空間に絵を展示して、それを他人に受け入れてもらえるという喜び。絵を買っていただくということの意味も初めて実感できて。買っていただくかたへの責任をもって今後も制作していかないと、と気持ちが引き締まりましたね。個展は、また来年以降でしっかり計画していきます。一番の最上位にある夢、それは絵本を描くということです。絵だけでなくお話も自分で書きたいし、湧き出るものは感じています。でも、焦って描いてもいいものは描けない。自分の経験を踏まえたり、これからキャリアをもっと積んでいって、いつかは描きたい。強くそう思っています。

村田なつか イラストレーター

1990年、茨城県生まれ。東京工芸大学芸術学部デザイン学科を卒業後、本格的に創作活動を開始。おもに水彩を使ったイラストレーションと、絵の世界をもとにしたアクセサリーを発表。渋谷・ロゴスギャラリー、Loft各店をはじめ、様々な手創り市やクリエイターイベントなどへも積極的に参加している。最近の個展に「森のなか」(’15年、新宿マルイアネックス FEWMANY)、「鉱石に住む」(’16年、同)、「けもの」(同年、GALLERY SPEAK FOR)がある。「ほしのふるひ」「しばいぬとおやつ」など自作ZINEも発表している。

http://natsuka.ciao.jp


「けもの」展については、こちら
http://blog.galleryspeakfor.com/?eid=719


村田なつかさんの商品一覧は、こちら
http://www.galleryspeakfor.com/?mode=grp&gid=1597148&sort=n