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buggy | Tatsuya Taniguchi

スーパーモデルやスーパーデザイナー、その他メディアを常に賑わせているセレブたちをモチーフに、様々なファッション誌でコラージュ的アートワークを手がけている〈buggy〉(バギー)。いたずらマインド満載で、受け手の好奇心まで刺激する大胆でヒップな絵の数々は、若槻千夏さんのブランド「WC」の広告ビジュアルでも知られています。「Numero TOKYO」「VOGUE JAPAN」などのページ内でもひときわ目立つ、この国籍不明なナゾのイラストレーター、buggyとは、実は大阪でデザインユニットをこつこつと続けてきた、ひとりの男性でした。2012年4月に大阪DMO ARTSにて、約3年ぶりとなる個展「ICONS」を開催し、絵やインテリア、雑貨などで構成。ギャラリー空間を隅々までコラージュマインドでジャックし大好評を博しました。そして今度はその巡回展として、さらにパワーアップした内容をGALLERY SPEAK FORにて開催することに(2012年6月8日から20日まで)。なぜ、ファッションアイコンを題材にして、いたずら書きするようなスタイルに至ったのか。ルーツはどこにあるのか、など、はるばる代官山まで打ち合わせにいらっしゃったbuggyこと、谷口竜也さんに詳しくお話を伺いました。

photo : Nobutaka Sato


 

キャッチーさに引かれた、ウォーホル

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どんな方法や手順で作品を制作しているのか、教えてください。

buggy(以下、B):
基本的にはアクリルで描く絵とコラージュする作品と、ふたつのタッチがあります。だいたい紙ベースですね。コラージュは、自分の手で素材を切って貼ってというオーソドックスなやり方。絵とコラージュをミックスすることもあるし、コラージュ段階とか、アクリルで描いたものに少し違う質感を入れたい時には、イラストレーターやフォトショップを使ったりします。このスタイルが確立できたのは、2006年ぐらい。それまでいろいろな絵を描いてみましたが、しっくりくる形が見つかったのが、その頃でした。仕事で制作する時には、レイヤーをあとで動かしたりすることが多いですから、ほぼ全てパソコンですね。

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イラストレーターになった理由を教えてください。

B:
本当に単純なんです。小さい時から絵を描いたり、ものを作ったりするのが好きで、それだけが、今に至るまで長く続けられているんです。本当は美大に行きたかったのですが、家族に大反対されて、普通の経済学部を卒業しました。その後で、将来のビジョンもなんとか説得できたので、改めてデザイン専門学校に入り、イラストコースで勉強し直しました。そこを出て、2年くらいデザイン事務所で働き、その間もコツコツ描いてはいましたが、辞めてから本格的に絵を描き始めたんです。独立するということで、あちこち営業に行きましたが、「スタジオボイス」が最初にいただいた雑誌のお仕事でした。

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何に影響を受けて、絵に開眼したのでしょうか?

B:
最初に引かれたのは、鳥山明さんなんですよ。小さい時は「アラレちゃん」の絵ばかり真似して描いていましたね。大人になってから一番衝撃を受けたのはアンディ・ウォーホル。あのキャッチーさ、でしょうか。あとはリチャード・プリンスとかも好きですね。音楽からの影響も、あるといえばあるんですけれど、それよりも、おもに目から受ける刺激に反応してきたと思います。グラフィティも好きですが、いわゆるタグづけみたいなグラフィティではなく、カウズとか、バンクシーとか、白人たちのストリートアート寄りのものに影響を受けたと思います。

ファッション業界から与えられたチャンス

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buggyという名前の由来は?

B:
もともと、buggyとして活動を始めた頃はチーム名でした。専門学校時代の友人たち何人かで構成してデザインなどをしていたんですが、ひとり去り、ふたり去るうち、かろうじて僕だけがフライヤーのデザインなどをして、細々とお小遣い程度の収入で続けられたので、今もそのまま名乗っているんです。本当に感覚的に、響きだけで付けた名前で。外人には、なんでベビーカー? と言われますが(笑)、イメージ的にはバイクのほうが近いですけどね。

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ファッション誌やファッションブランドのお仕事が多いですね。

B:
特にファッション誌に憧れていたとか、ファッションに携わりたいと思ってやってきたわけではありません。僕の絵に反応してくれるのが、たまたまファッション誌、ファッション業界の方が多かったのだと思います。例えば僕は、マーク・ジェコブスを描いたり、カール・ラガーフェルドを描いたりしていますが、彼らの作る服が好きだからというよりも、彼ら作り手の、社会における存在感、洗練されたセンセーショナリズムのようなものが好きなんです。どこかセクシーな感じが絵になりますし、描こうとする気持ちも盛り上げてくれる。だから、同時代そのものがテーマという点では、仕事で描く絵と作品として作る絵、その間にほとんど区別はありませんね。画風やスタイルのせいかも知れませんが、雑誌であれば、この見開きを丸ごと絵で、という依頼が多いですし。だから雑誌や書籍であっても、作品に近いスタンスで取り組むことができていると思います。

ポップアイコンのパワーを倍増させたい

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今回、東京では初の個展ですね。なぜ「ICONS」というタイトルに?

B:
僕はやっぱり、ポートレートを描くのが好き。ファッションアイコンとか、ポップアイコンみたいなものを描くのが大好きで。そのモチーフの持つパワーのようなものを、僕というフィルターを通して倍増させたいという気持ちがあるんです。それを並べるとかっこよくなるんじゃないかと。それで、タイトルは分かりやすく一言で表現しようと思って「ICONS」にしました。大阪展(DMO ARTS)の時は、そうしたクリエイター、映画監督、ミュージシャン、作家などを、しかも女性モチーフに絞りましたが、今回はもっと男性イメージまで幅を広げて制作しています。僕の好きな人たち、かっこいいと思う人たちを選びました。もし描かれているのが誰なのか知らない人が見たとしても、これは誰なんだろう、と興味を持って調べたくなるような、そんなインパクトが伝わればいいなと思います。あとは、ペイントを施したトートバッグや、ボディから作ったTシャツなど、オリジナルアイテムも販売する予定なので、手にとって見ていただきたいですね。

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将来に向けて、何か目指している目標を教えてください。

B:
海外でも展覧会ができるといいですね。今までグループ展に参加したことはありますが、ニューヨークやロンドンで盛大に個展ができるくらいになれれば、と思います。あとは、ハイエンドブランドの広告をぜひやりたいです。たいてい、そうした広告は写真しか使わないじゃないですか。それを、思いっきり絵でやれたら面白いだろうなと。そうしたら、いろんなことが変わると思うので、目標として活動していきたいですね。

buggy(アーティスト/イラストレーター)

本名・谷口竜也。デザイン事務所勤務を経て、2002年よりbuggy名義で創作活動を開始。神戸ファッション美術館('05年)、大阪digmeout CAFE('06年)での個展を含め、国内外のグループ展でも精力的に新作をリリースしてきた。最近では「Numero TOKYO」「VOGUE JAPAN」「FIGARO japon」などの雑誌やCDジャケットでアートワークを手がける。UNIQLO CREATIVE AWARD 2007にて天野喜孝賞を受賞。若槻千夏のブランド「WC」のカタログや彼女の著書「うそつきちなつ」のアートディレクションも話題に。'12年4月、大阪 DMO ARTSにて「ICONS」展を開催した。

http://www.buggylabo.com/


「ICONS」展についてはこちら
http://blog.galleryspeakfor.com/?eid=575