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サイトウユウスケ | Yusuke Saitoh

ペンタブレットを使い緻密に描き込まれる、サイトウユウスケさんのイラストレーション。優れたデッサン力を活かしたポートレイトには、部分ごとに張り合わせやコラージュの面白さが取り入れられ、ポップで躍動的な美しさとクールな含蓄が魅力になっています。音楽誌「MUSIC MAGAZINE」表紙を5年以上も担当し続けており、音楽と絵、その不滅の接点を今に体現する才能と位置づけることができるでしょう。そんなサイトウさんが、まさに音楽テーマの個展をGALLERY SPEAK FORにて開くことになりました。「MM2」展(2013年10月11日〜23日)は、2年前に開いた個展「MUSIC MAGAZINE」展の大反響を受けた企画。デジタルを駆使するようになる前の自己修業の頃、今の画風にたどり着いたストーリーや、音楽との関わりのことなど、代官山へお越しいただいた彼にお話を伺いました。

photo : Mach


 

自己修練で描き続けたポートレートが開花

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どのように絵を描いているのか、教えてください。

サイトウユウスケ(以下、S):
仕事では全てMacを使って描いています。おもに使用しているソフトは、PainterとPhotoshop。下絵もペンタブレットを使い、仕上げまで一切の流れをデジタルでやっています。手描きタッチに見えるものも同じで、キャリアの始めから基本的にはこのやり方。アナログは介さないですね。下絵を手で描いたのは専門学校のときの1年目くらいまで。今は手で描くのって、絵の構造を考える時にボールペンで殴り書きすることくらいです。

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イラストレーターになったきっかけは?

S:
10代の頃はミュージシャンになることに憧れていました。「イカ天」は小学生の頃に見ていたし、最初に買ったCDは、たま。筋肉少女帯とかドアーズなんかが好きで、バンドもやっていたんです。でも20歳を過ぎて、これは僕には向いていないと思い始めました。じゃあ将来何をしようか。自分にとって一番自然に続けられることって何かと考えた時に、小さい頃から絵は描いていたし、それを職業にするのがいいんじゃないかと。何にしても表現者になりたかったし、その決心がきっかけですね。それまでは落書き程度にしか描いていなかったんですけど、いちから真剣に絵に向き合ってみようと専門学校に入り直しました。21か22歳の時です。始めた頃は本当にデジタルが苦手で、PCの授業に全然ついていけず、いつも先生に質問しているような感じでした。イラストレーターでやっていくには絶対デジタルが有用だろうと思っていたので、自分でPCとソフトを購入し猛勉強して、ほぼデジタルの制作スタイルになったんです。

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ファッションイラストレーションともいえる、今の画風にたどり着いた経緯は?

S:
もともとは漫画カルチャーに引かれていました。つげ義春さんや水木しげるさんなどアングラ寄りな作品が好きだったんですけど、専門学校時代にポップアートの流れを知り、ジェームズ・ローゼンクイストに衝撃を受けて、タッチとか、いろいろな面で影響を受けましたね。だから最初はどろどろした世界も描いていたんですが、デッサン力が足りないなと思って、写実的にポートレートを描くことを自己訓練として、毎日1枚や2枚は必ず描くと決めて続けました。それらを編集者に見てもらったら評判がよくて、だんだん方向性が定まっていったんです。自分の思いやメッセージを込めるよりも引き算をするというか、クールにモチーフに向き合うように。それで今の作風に落ち着いたという感じです。

70年代への憧れと、80年代の思い出

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どんな時に絵のイメージが浮かんで、形になるのですか?

S:
仕事では、打ち合わせの間に脳内で構図ができあがっていきます。シチュエーションが浮かんでくるというか。「MUSIC MAGAZINE」の表紙の場合も、アートディレクターと編集者と3人で話しているうちにだいたい決まってきますね。基本的にはアーティスト写真を参考に、いくつかの写真を組み合わせたりコラージュしたり。アーティストによってはそのまま描いてくれという注文もありますが。半日で下書きして、クライアントの確認がとれたら半日で仕上げを。早いほうだと思いますね。筆を入れ始めたら一気に仕上げるようにしています。翌日見直して、納得していればOK。少し手直しを入れることもあります。基本的に、僕にとって絵を描くことは楽しいことなんですよ。モチーフはなんであっても、描くこと自体で苦労することはあまりないですね。

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光の美しさがキーになっている絵が多いですね。

S:
夏の強い日差しのように、記憶に残っている強い光とか、そういうイメージを絵に取り入れたいと思っています。70年代のニューカラーといわれる写真家たちの作品が好きです。あと、光が入り込んでしまって色褪せ気味の古い写真ってありますよね。そういう質感も好きです。ネットで見かける無名の人の思い出のスナップ写真も、光の具合がいい味で面白いなあと思うことがあります。サイケデリックカルチャーからの影響はなくて、70年代への憧れと80年代の思い出みたいな。その辺で絵を描いているところがあります。

新作の手描きアクリル画も発表

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今回の展覧会について、ご説明ください。

S:
僕が連載している「MUSIC MAGAZINE」表紙のイラストレーションを中心に、音楽関係の仕事や企画展で描いてきた一連の作品を、音楽というテーマのもとに展示します。音楽の力は強く、2年前に「MUSIC MAGAZINE」展を開いた時には関西からわざわざ見にこられた方もいたり、未知の音楽ファンの方ともつながれるなど成果が大きかったので、その続編という位置づけです。デジタル制作のプリント作品だけではなく、新作の手描きアクリル画も発表します。安斎肇さんのバンド、フーレンズのジャケットを描かせていただいた縁で、安斎さんにギャラリートークにいらしていただけることになりました。今回の展示のために新しく作ったTシャツや、ギターピックも販売します。オリジナルのギターピックは、自分でも欲しいので作ったお気に入りです。

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今後の目標や、近い将来の計画を聞かせてください。

S:
当分この調子でやっていきたいですね。雑誌「Monocle」で小さなカットの連載をしていたこともありますが、海外の書籍や雑誌お仕事にも少しずつ進出できれば嬉しいです。仕事以外では、作品として手描きの絵もどんどん描いていきたいと思っていますし、それを今回のように、折に触れて個展などで見ていただきたいと考えています。

サイトウユウスケ(イラストレーター)

1978年、神奈川県生まれ。2003年、バンタンデザイン研究所イラストレーション科を卒業後、イラストレーターとして活動を開始。デジタルによるペインティング作品を制作。音楽誌「ミュージックマガジン」の表紙を'08年から手がけるほか、AKB48、高橋洋子などのCDジャケット、ワコールなど広告や映画ポスター他で活動中。近年の個展に「Shine Shine Shine」('09年、GALLERY SPEAK FOR)「MUSIC MAGAZINE」('11年、タンバリンギャラリー)「NEW COLOR」(12年、同)がある。TIS会員。

http://www.saitoh-yusuke.com/


「MM2」展についてはこちら
http://blog.galleryspeakfor.com/?eid=607


サイトウユウスケさんの商品はこちら
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