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北沢平祐 or PCP | Heisuke Kitazawa

色彩あでやかで、妖精の目をしたモチーフたちがふわりと舞うような画風の絵。北沢平祐さんの手がけるデジタルイラストレーションは、緻密さと透明感を両立させ、沈黙のなかに深いストーリーが息づいています。冲方丁「はなとゆめ」(角川書店)の装画でも話題になっていますが、その一方で個人的な作品や絵本を創作するなど、多彩な表現活動にも取り組んでいます。GALLERY SPEAK FORでの「そして、ひかりはゆがみ」展(2013年12月6日〜18日)は、日本で初めての個展。AからZの26文字から着想した手描きの新作原画を中心に、立体作品なども展示する楽しい内容になりました。絵による表現に向かったいきさつや、どんな物語を絵に込めているのかなど、個展会場にお越しいただいた北沢さんに詳しくお話を伺いました。

photo : Kenta Nakano


 

コミュニケーション方法の模索から

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どのような手法で絵を描いているのですか?

北沢平祐(以下、H):
仕事のための絵は、Photoshopで描いています。鉛筆の下絵をスキャンし、直接ディスプレイ上に描けるタブレットで線画を描いて、着色までの全てをPhotoshop内でやります。僕は油絵を描く時に近い色の混ぜ方をしていて、どんどん厚塗りをするように塗っていくのですが、その点が他の作家さんと少し違うかも知れません。また、仕事以外の作品制作では、鉛筆で下絵を描いて、その上にマンガ用のインクとGペンで線を描き、カラーインクとブラシを使って着色しているものがあります。

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イラストレーターになったきっかけは?

H:
10歳の時から26歳までアメリカに住んでいました。渡米した時には全く英語が話せなかったので、コミュニケーションに苦労があり、もっと簡単なコミュニケーション方法はないか、という切実な気持ちを無意識に抱えていたんだと思うんです。それは音楽や絵なのかなと漠然と感じていました。僕はもともと絵よりも音楽が大好きでしたが、残念ながら音痴で(笑)、職業にもならないだろうと。高校を卒業する時に絵を始め、たまたま入った大学が、アナハイムにあるカリフォルニア州立大学フラトン校なんですけど、ディズニー本社やハリウッドも近く、そうしたところで卒業生も多く働いているし、ディズニーの関係者が非常勤講師だったりして、アートの分野に非常に特徴があったんです。素晴らしいイラストレーションの先生に導いていただきましたし、その大学に入っていなかったら、僕はいま絵をやっていないだろうと思いますね。油絵の基礎も勉強しましたが、始めからコンピュータを使った絵に興味を持っていたので、それを続けてきました。

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どんな時にイメージが浮かんで、絵にまとめあげるのですか?

H:
仕事の場合では、お題を与えられて自分の中で咀嚼して取り組むことになります。書籍の装画は、原稿を読んで読書感想文のように頭の中で要約し、抽出できたものを形にする。個人的にはミステリー小説も好きですから、本の仕事に限らず、プロットや仕掛けを考えて絵に潜ませるのが好きです。うさぎがいるようなかわいい絵に見えながら、実は違うものも潜んでいたり。僕の絵にはストーリー性があるとよく言われますが、そうした仕掛けから生まれているのかも知れませんね。初期の頃から変わらない、一貫したスタイルです。

自画像的な「A to Z」のストーリー

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今回の展覧会では、A to Zの新作を26枚も発表しましたね。

H:
より多くの方々に原画を手にしていただけるよう、小さめの絵をたくさん作ろうと考え、AからZまでの26枚で1シリーズにしたものを考えました。始めは子ども用のABCブックみたいなものを考えましたが、試行錯誤のすえに、ふだん僕がやっているようなことをやりつつも、AからZに至るストーリーを盛り込むこと、カラーインクを使うこと、絵の周囲になにがしかのボーダーをつけてデザイン感を高めること、その3つの縛りだけキープする26枚としたんです。ここ数年、習作として子ども用絵本を描いている中でカラーインクを試し、その発色の良さや柔らかいニュアンスに心を奪われました。カラーインクの色合いは印刷での再現が難しいですし、原画を見ていただける個展の機会には、ぜひカラーインクでと思っていました。Aから順番に見ていくとグラデーションもきれいに見えるよう色彩設計しています。

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AからZまで、どんなストーリーを込めたのですか?

H:
ひかりとゆがみ、というのは絵のモチーフになったふたりの女の子の名前です。ひかりは、まっすぐで正統派。自分の中の正論を言うほうであったり。ゆがみは、自分の中の歪んでいるほうで、どんな人にも両サイドがあり、その両サイドの折り合いがつかなくなっていくと、人間は色々な面でバランスを崩すと思うのです。その、ふたつの葛藤、バランスを取り戻すためのお話です。簡単にいうと「自分探しの旅」のようなもの。僕自身、2013年はひどい年でしたから(笑)、どんぞこからはいあがるお話でもあります。長いトンネルの先に光を見つけ、自分を見つめ直していくというような。

親友と取り組んだポップアップ作品

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立体作品や、物販アイテムについて教えてください。

H:
絵の他に、2点のポップアップボックスも壁に展示しています。僕の絵をもとに、親友でポップアップアーティストの安友伸吾くんに制作していただいたものです。僕が10歳でアメリカに行って、小学5年生のクラスに3人だけいた日本人のひとりが彼でした。それ以来、ふたりとも離れた場所に住みながらも連絡はとりあっているのですが、彼はサンリオで、ポップアップカードの構造を作る仕事をして、年間に何百もの構造を作っています。それを活かして、ふたりだからこそ形にできる共作を作ろうよと、2005年にひとつ作りました。今回は日本で初めての個展ということで、もうひとつを作り、そのふたつを展示しています。僕の絵の中で最も複雑な細かい絵をベースにした力作で、これはぜひ、ギャラリーに足を運んで実物をご覧いただきたいですね。また、物販アイテムとしては、新作26枚のお話に出てきたキャラクターをあしらったトートバッグがあります。赤バージョンはひかりで、青はゆがみ。2つでひとつみたいなコンセプトです。今回のために作った限定20枚のジークレープリント作品も販売しています。

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今後の目標を聞かせてください。

H:
Kenzo Parfumsのパッケージを手がけた時には、僕の絵だと知らずに、友だちのおばあちゃんが偶然デパートで見て、きれいだったからと買ってくださったそうです。装画を描かせていただいた本でも、そうした偶然のつながりはありますが、僕の絵かどうかを切り離したところで、純粋に完成形を受け入れてもらえることがあると、とても嬉しいですね。今後ももちろん、新しいジャンルのお仕事もやってみたいですし、広告や書籍でも違うアプローチを試して、皆さんにすすんでチョイスしてもらえるようなお仕事を手がけていきたいと思っています。今回、仕事以外でこれだけまとまった数の絵を描く機会ができて、展覧会の良さをひしひしと感じましたから、今後も定期的に続けていきたいですね。自作の絵本も準備中です。習作として4作くらいはできているのですが、そうした自分の思いをストレートに出せるような活動にも注力していきたいと考えています。

北沢平祐 or PCP(イラストレーター)

横浜市生まれ。ロサンゼルスに16年在住した後、帰国してイラストレーターとしての活動を開始。綿矢りさ「大地のゲーム」(新潮社)、冲方丁「はなとゆめ」(角川書店)など書籍と「別冊文藝春秋」の表紙装画や、「Number」「Dazed and Confused Japan」「Mdn」他の雑誌でイラストレーションを手がける。また、Her Space Holidayなど音楽CDのアートワークや、東急プラザ、Marmotなどの広告、Kenzo Parfumsのパッケージングなど国内外で幅広く活動中。

http://www.hypehopewonderland.com/


「そして、ひかりはゆがみ」展についてはこちら
http://blog.galleryspeakfor.com/?eid=611