ARTISTS

riya | リヤ

鳥や動物、小さな生き物たちがグラフィックとして細々と構成されている、それだけの平面表現なのに、生命の真理や星の空気感まで、深々と伝わってくるのが不思議です。riyaさんの切り絵は、紙から立ち上がる神秘の声が聞こえてきそうな臨場感が魅力。それを実現しているのは、切り絵というアナログそのものの手法です。モダンなインターフェイスの中に、神秘や野性の息吹も感じさせる彼女の図像たちは、商業ビルやアパレルブランドなどとのコラボレーションで、都市空間に新鮮なニュアンスをどんどん持込んでファンを増やしているところです。そんなriyaさんが大阪での個展を経て、初めてGALLERY SPEAK FORで個展「TRICK STER」(2014年2月14日〜26日)を開くことに。切り絵を描くために実際に旅をし、生き物たちを見て感じることから絵のプロセスを始めるという、その創作姿勢の源泉は何なのか。代官山にお越しいただいたriyaさんに、切り絵との出会いまでのドラマを伺いました。

photo : Kenta Nakano


 

創作人生を変えた、クジラとの出会い

───
絵はどのようなプロセスで制作されていますか?

riya(以下、R):
基本は紙をカッターで切って作っています。紙をカッターとハサミで切り出して、それにアクリルで着彩したものを画用紙上で配置し、糊で貼りつけて作っています。紙の材質自体は、特殊な紙ではありません。その時々で気に入ったものを使うのですが、買ったそのままの紙を使うのではなく、自分の思うような支持体にするため、一度色を塗ったりして使っています。左右対称の絵柄が多いのは、2つに折った紙をカッターで切り、それを開いて作ることが多いためです。ざっくりした下絵を鉛筆で描いて、そこから切るんですが、細かいところは、切ったり塗ったり貼ったりする段階で変わることもありますね。最初に浮かんだ完成形がもとにあるので、そこからは大きくそれることはないです。

───
アーティストになられたきっかけは?

R:
もともと、見たり感じたことを人に話すことに苦手意識があり、私にとってしっくりくる伝達方法のひとつが、小さい頃からよく描いていた絵でした。服飾にも興味があったので美大ではテキスタイル科を選び、染めや織りなどを学んで、大学を卒業後にアパレルメーカーに就職したのですが、なんと半年ぐらいで倒産してしまったんです。絵は独学でずっとやっていたので、じゃあフリーで頑張ってみようかなと。その頃に、せっかく時間ができたからと出かけた旅先での体験が大きかったですね。幼い頃からの夢だった、クジラを見に行くツアーです。小笠原諸島の父島へ。そうしたら、乗っていた船の下からクジラが出てきて、信じられない近距離で一緒に泳ぎ出すという、ガイドさんでさえ号泣するような体験ができたんです。クジラと目が合って…。その時に一瞬、自然界と通じるような接点を信じることができたんですね。うまく言えませんが、それをきっかけに描きたいものがどんどん浮かぶようになりました。クジラに背を押されたというか。以前は少し考えて描いていたりしたのが、もっとスピーディーというか、ぽんと来たものをすっと出すみたいに変わりましたね。仕事の時は少し違う脳も使いますが、今の作品づくりではインスピレーションを紙に投射できている実感があります。

絵を描くことは、見て感じること

───
切り絵で創っていこうと思ったのはなぜですか?

R:
自分が見たいものを描く方法を探していたら、切り絵に落ち着いたという感じです。2009年から始めました。切り絵だと、紙を切ることで描線がきれいに仕上がるから好きという単純な理由もあります。大学では型染めの版を切るのを1、2回やったことがあり、多少役立っているのかも知れませんが、それは一般的な切り絵とは違いますから、ほとんどが自己流ですね。いろいろな民族のテキスタイル、織りや文様が好きだったので、いい具合にミックスして今の私の絵のルーツになっているんじゃないかと思います。動物や生き物、自然がすごく好きで図鑑なども見ていましたし、小さい頃に住んでいたシカゴの家の内装がメキシコ調だったり、インディアンの柄などが身近にある環境で育った影響もあるでしょう。自分の好きな動物のモチーフがそこに組み合わさっていったのかな。自分のイメージがパソコンで表現できればそれでもいいとは思いますが、手と紙で作る切り絵のほうが、今、私が表現したい世界に近いと思っています。

───
どんな時に絵を着想しますか?

R:
動物図鑑は好きで集めたりしていますけれども、基本的に自分が見たものを絵にしようと思っています。テーマになるものがほぼ一貫していますから、関連する現場へ行って生き物などを見て。そのまま模写するわけではないですから、どれだけ実際の姿かたちを取材するか、ではないんです。見て少し時間が経ってから、急に図像としてふと現れることもありますし。電車に乗って移動中に、目が開いている状態で思い浮かんだり。細かいところまでは見えないので、作りながらその時の気持ちや印象に残っているお話などに絡めて、絵文字のように細部を作っていきます。私のなかで、見て感じることと絵を描くことは、すごく密接な感じがします。

カナダの島への旅で感じたこと

───
今回の展覧会について教えてください。タイトルの意味は?

R:
TRICK STER(トリックスター)というタイトルは、神話に出てくるいたずらものを指します。カラスやウサギなど、いろんな形を借りて世界中のあちこちに存在しているトリックスターの視点から、神話の世界へ好奇心でおじゃましてみるという内容にしたいと思いました。神話のワンシーンを描き起こしたのもあれば、そういう世界観を漠然と描いているのもあります。このテーマにまつわる場所に実際に旅に行き、その場での知見を自分の中に落とし込んで描くというのもやってみたかったことで、今回は初めて、カナダのハイダ・グアイ島(クイーンシャーロット島)へ行きました。写真家・星野道夫さんが好きな方は絶対知っている島で、動物のトーテムポールやインディアンの装飾など、工芸品、民族的な文様が優れているといわれている特殊な場所で、クジラもクマもいる緑の深い島では、ワタリガラスがトリックスター。先住民の村の跡地を訪ねたりして、見て感じたことを描いた作品シリーズです。今回の個展に合わせて絵とテキストを編集したブックも制作したので、ぜひ手にとって見ていただきたいですね。iPhoneケースやTシャツなどもおすすめです。

───
今後の目標を聞かせてください。

R:
展覧会は今後も定期的に開いて作品をリリースし、だんだんパワーアップしていきたいですね。そのうち、大きい空間全部を作るような展示をしてみたいなあと思っています。内装のデザインも含めて、全部。空間いっぱいを使って絵を見せられるような展示を、いずれできたら。私は作家名のこともあり、男か女なのか、どこの国の人なのか分からないと言われることがあります(笑)。せっかくなので、海外でも展開してみたらどうなるか、ぜひやってみたいですね。日本とは全然違う反応があるでしょうし。実際、大阪での個展の時には、ステイトメントの文面も理解できないような外国のお客様が感動した様子で、いいねと話しかけてくださったこともありました。言葉を援用しなくても伝わる絵の魅力を、これからも膨らませていきたいと思っています。

riya(切り絵作家)

1985年、米国シカゴ生まれ。多摩美術大学でテキスタイルを学び卒業後、2009年より本格的に切り絵での創作を開始。エコロジカルなニュアンスの作品が好評を集めている。作品の展示発表活動をベースにしながら、「VOGUE JAPAN」などでのエディトリアルワーク、新宿伊勢丹、銀座ソニービル、表参道Aoの広告や壁面デザイン、コスメブランド「L'OCCITANE」アートシア缶のデザイン、アパレルブランド「組曲」とのコラボアイテムデザインなど、幅広いジャンルの仕事を手がけている。2013年10月に大阪 DMO ARTSにて個展「TRICK STER」を開催した。

http://riyaweb.com/


「TRICK STER」展についてはこちら
http://blog.galleryspeakfor.com/?eid=615