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石川真衣 | Mai Ishikawa

幼い日々の感受性から覗き見た世界観や、亡き愛犬と自分との交流を、児童書の装画や70年代の劇画を思わせる濃厚なタッチで表現し続けているのが、新鋭版画家・石川真衣さんです。小学生の頃から続けてきた落書きを今も台本にしながら絵が作られるといい、アニメーションが好きで育った世代にも、古い漫画好き世代にも着目されやすい画風に。スケールの大きさや刷り感の美しさで学生時代から注目され、版画や絵画コンクールでも高い評価を獲得中です。各所で展示機会の多い人気者ですが、今春はGALLERY SPEAK FORで「RETRIEVE」展(2014年4月11日〜23日)を開催することに。落書き好き少女があえて版画を選んだ理由や、その行く末にある目標などまで、代官山にお越しいただいた石川さんにお話しいただきました。

photo : Kenta Nakano


 

宇宙まで感じさせる世界観づくり

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絵はどのような手法で制作していますか?

石川真衣(以下、M):
おもにリトグラフで制作しています。版画ですね。アルミ板にダーマトグラフとソリッドマーカーで絵を描いて版を作り、プレス機で刷ります。自宅のアトリエにもプレス機がありますし、大きな作品の場合は版画工房を借りて製版します。リトグラフは、掘るというより描く感覚に近い版画で、製版する段階ではダーマトグラフの油分が水を弾いて、油分がのっていないところに反応して水がつく。それを反転して完成なので、最終的に描画したところにだけインクがのることになるんです。私の絵が細かいせいもあり、ひとつの版で刷れるエディションが3〜10枚くらい。しかも刷りごとにニュアンスが少しずつ違うので、それぞれが一点ものに近い部分もあります。

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絵を描き始め、版画を選んだきっかけは?

M:
小さい頃からポスターや絵本の表紙を見るのが好きでした。アーティストになりたいと思い始めたのは小学生の頃で、高校も美術科へ。でも本当にアーティストになるには、自分でずっと続けられるということが大事じゃないですか。その点、私の母が美大生時代からずっと版画をやっていて家にプレス機があったので、版画のための環境がもともとあり、これなら続けられそう、と多摩美術大学の版画科に入ることにしたんです。あと、「美少女戦士セーラームーン」に強く影響されましたね。セーラームーンは母性や宇宙を感じさせるテーマ、細かくリアルな設定と完璧な世界観を備えた作品で、私もそういうものを作りたいとずっと思ってきました。だから、最初から自分の描きたい絵柄があったので、それに合う版種を選んだわけです。私は線で表現しているので、銅版かリトグラフということになりますが、銅版は凹版だから基本的に彫る体力がいるので、これは私には続けられないと思ってリトグラフにしました。

過去の自分が投影された登場人物たち

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絵には、犬が必ず出てきますね。

M:
私の絵とゴールデンレトリバーとの暮らしとは、切っても切れない関係です。小学生の頃からレオ(ペットの犬)と私が主人公になった物語をずっと絵で作っていて、それが今でも続いているんです。祖母の家に私用の落書き帳が用意されていて、それにずっと描いていました。学校の授業中にも描いていましたね。主人公が敵と戦うお話で、敵は、例えばクモやツクシなど見た目が怖いもの。ツクシは今では怖いなんて思いませんが、その頃は邪悪な感じがしたんですよ(笑)。身近なものを敵に見立てた、夢みたいなお話。でも登場人物はリアルで、現実と空想がごちゃまぜだったんです。それを今も整理して形にし続けているいう感覚ですね。もちろん、主人公が同じく私自身でも、年齢を重ねると考え方は変わっていきます。絵には牡丹ちゃんの他、ヴァンパイアガール、蜂の子という女の子も登場しますが、3人それぞれに成長段階別の自分が投影されているんです。基本的にはハートフルな物語で、復讐劇ではないですよ(笑)。

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少女主人公の独特な絵の世界について、どんな反響がありますか?

M:
女の子が漫画っぽい表現なので、今っぽいねって言われることがありますが、古風だと言ってくれる方も多いですね。美大の女性教授からは、昭和の少女漫画みたいな絵で、アングラな感じがすると言われました。実際、私は漫画雑誌「ガロ」を読むのも好きだったし、80〜90年代の漫画やアニメが好き。美大には版画界の巨匠の先生も多くいらっしゃるので、そんな私のスタンスが批判されているんじゃないかと心配される方もいましたが、そんなことはなくて、とてもありがたい評価と応援をいただいてきました。

シルクスクリーンでの多色刷りも

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今回の展覧会について教えてください。

M:
リトグラフは白黒の大きな作品が中心になりますが、昨年の個展ではカラーの作品を買っていただける方が多かったので、(見ている側の心に)届きやすいんだなと感じました。これまでの代表作・主要作による構成が軸になりますが、昨年よりもシルクスクリーンによるカラー作品をより多く見ていただきます。私は渋い色のものが好きなんですけど、ヴィヴィッドな色の絵を買ってお部屋に飾った様子の写真を送ってくださったお客様がいて、インテリアとしてはこういうものがマッチするんだなと教えられました。ですので今回、カラーの作品にも注目していただきたいと思います。

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物販アイテムについて、2〜3、おすすめしてください。

M:
まず立体作品として、初めて牡丹ちゃんのオリジナルフィギュアを発表します。友人で芸大生の漆畑勇気くんという方にお願いして制作しています。普通のヴィジュアルフィギュアではなく、肉感も感じさせるようなすごく良いものができそうです。また、部屋に飾れるオブジェ的なオーナメントも披露します。あとは「蜂の姫退治」という2009年の作品のストーリーをもとにしたコミック冊子と、シルクスクリーンで刷って自作したTシャツも販売します。

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将来の目標をお聞かせください。

M:
美術館やギャラリーなどでの作品発表は、もちろん作家活動の軸として続けていきます。それ以外では、ギャラリーなどにふだん行かない方も手にする化粧品や洋服、小物、靴などを媒体として、多くの方々に私の絵を見ていただいたり、本にしたりするような展開も今後できたらいいなと思っています。でもそうした様々なメーカーや制作会社などと私とで、どちらが主で従でということではなく、牡丹ちゃんの世界のあるがまま、グッズや本としてリアルに増殖していけるのが理想です。牡丹ちゃんのキャラクターは、着るもののディテールや部屋に置くものまで細かく決まっていますから、構想はたくさんあります。牡丹ちゃんの王国を作りたいんですよ。それと、牡丹ちゃんや犬に関するエッセイも書いてみたいですね。ただし、そうした活動も全て、版画家という立ち位置のままで行います。私はそこにこだわっていきたいと思うんです。

石川真衣(版画家)

1988年、埼玉県生まれ。多摩美術大学美術学部絵画学科在学中より、創作・展示活動を開始。第33回大学版画展(2010年)にて町田市国際版画美術館収蔵賞を受賞し注目を集める。第1回FEI PRINT AWARD(2012年)にてグランプリ、和紙の里 東秩父版画フォーラム2013にてNHK埼玉局長賞などを受賞した。2013年、多摩美術大学大学院卒業。最近の個展に、「レオと待ち合わせ」展(2011年、東京・MILK CROWN CAFE)、「石川真衣個展」(2013年、ギャラリーb.tokyo)などがある。

http://ishikawamai.com/


「RETRIEVE」展についてはこちら
http://blog.galleryspeakfor.com/?eid=619