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星野勝之 | Katsuyuki Hoshino

何かが起きそうなワクワクするパースペクティブ。基地ごっこ、偵察ごっこなど少年マインドへと引き戻されそうな箱庭的イラストレーションで人気なのが、星野勝之さんです。「イラストレーションビルダー」と自称するように、彼の創作の全てはなんと3DCGで作られるものであり、独特の手法で絵を「設計」しているのです。月に何冊もの新刊本の装画を手がける売れっ子でありながら、その手法のユニークさゆえ、あまり作品展示をしてこなかった彼が、久しぶりにGALLERY SPEAK FORで個展「紫煙の未来へ」(2015年4月10日〜22日)を開くことなりました。家業の影響もあって工業的なもの、サイエンスへと傾斜し、3DCGとの出会いにひらめいたそう。その興味深い制作過程など、代官山へ打ち合わせにいらっしゃった星野さんに、詳しくお話しいただきました。

photo : Kenta Nakano


 

テンキー入力で描く、非日常

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絵はどのような手法で制作していますか?

星野勝之(以下、K):
全ての絵は、コンピュータの3DCGソフトを使って描いています。以前は、手描きでラフを描いてからコンピュータ上でより細かく描き直していくという流れでしたが、最近ではあまりラフは描かないですね。頭の中でよく構想を練ってから、直にコンピュータの世界に突入したほうが早い、という感覚があります。仕事を多くこなしていくうちに、そうなりました。だから僕にとって描くための筆があるとすれば、マウスとテンキーです。回転数とか角度をテンキーで入力して描く、そんなイラストレーターはいないですよね(笑)。

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どうして今の描き方にたどり着いたのですか?

K:
子どものときに特に好きだったのは、理科と絵・工作でした。科学者になるか、アーティストか。結局、絵の方に進み専門学校で方向性が定まってきます。人の手が加わっていないようなフラットな絵ばかり描いていたところ、先生に、コンピュータのほうが合ってるんじゃないかと言われたんです。それで、フォトショップもイラストレーターも、ひと通り全部使ってみたあとで、3DCGソフトを手にした時、小さい頃に大好きだったブロック遊びやプラモデル作りのような、物体で組んでいく作業感覚に、バシッと閃くものを感じました。それ以降、ずっと3DCGで描いています。家が自営業で設計に携わる仕事をしており、製図台とか定規、コンパス、ミリペンなどが僕の遊び道具だったので、工業デザイン系のソフトにも違和感がなかったんでしょうね。また、藤子不二雄さんの世界が大好きだった。畳の部屋にドラえもんが来ることによってSFストーリーが始まるというような、日常の隣にある非日常、少しの変化で現実が奇妙に変容する、そんな世界観が好きだったんですね。だから、建築物やガジェットを描くことが多くなりました。

「もの」を描くことと、「絵」を描くこと

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どんな時に絵のイメージが浮かび、どうやってまとめあげていきますか?

K:
作り方には二通りあります。ひとつは、描きたい「もの」がある場合。ストレンジなビルの形が思い浮かび、このビルを描きたいとか、70'sな車が描きたいという場合は、先にその車やビルのモデリングを詰めちゃうんです。そしてそれらのアングルを試行錯誤しながら、いい画角とライティングをミリ単位で探し出すパターン。もうひとつは、絵が頭の中に浮かぶ場合なんですが、その場合はまず配置を決めます。こっち向きの影がかっこいいな、などとイメージがあるので、ライティングもズバッと決め、その後に細かく直しをしていく。絵のアイディアは、映画を観たり音楽を聴いたり、自転車で知らない街を走っていたりする時に浮かぶ場合もありますし、貯めていたイメージのピースをパズルのように、どれが合うかなと試行していく場合もあります。

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制作のなかで、一番難しい点はなんですか?

K:
止めどころが決めがたい、ということですね。特に僕の場合はラインや色などだけではなく、カメラアングルやライティングの要素も絡んでくる。表面のテクスチャや、窓のサイズとその反射率など、全てがトライ&エラーできちゃうんです。今日は夕景のほうがいいなとか、朝日がいいなとか。それが自分でできてしまうので終わらない。仕事の絵で締切りがあることが、今はひたすらありがたいです(笑)。仕事でなければ、データのままレンダリングしないで終わっちゃう。つまり過去に完成させた絵も、いわばどれもが「Version 1.0」なんですよ。

3D発想で、奥行きのある展示を

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今回の展覧会について教えてください。

K:
都内では約5年ぶりの個展で、過去のアーカイブから選ぶのと、過去作をリテイクするものもあります。アクリルマウント加工したデジタル作品は、非常にきれいに仕上がったので、ぜひご覧いただきたいですね。僕は、建造物や空間デザインに興味があるため、壁に絵を展示して終わりではなく、絵を入れることでその空間がどう見えるかに意味があると考えていました。その点、GALLERY SPEAK FORは自分の理想により近く、納得のいく展示ができるのでは、と楽しみにしています。タイトルは「紫煙の未来へ」で、紫煙というのはいわゆるタバコの煙のことですけど、もちろん喫煙がテーマではなく、男性的な世界観をさらに進化させた境地のようなことを意味しています。霞の向こう、まだ見えないこの先の未来について、というイメージも含んでいます。このタイトルにかけた新作5点も発表します。

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物販アイテムについて、2〜3、おすすめしてください。

K:
エッチングによるシルエットオブジェを作られている川口喜久雄さんとコラボレーションしたミニオブジェがおすすめです。スタジオジブリの公式グッズをジブリ美術館にも卸している方で、数年前、僕が白黒で鉄塔とかを描いていた頃、川口さんが偶然に僕のホームページを見つけてくださった縁で知り合いました。モチーフの影の部分を脚にして自立するような、6.5センチくらいのアクリルボックスに入ったもの。5種類ありますので、それは注目して欲しいですね。また、オリジナル作品集も作っています。販売するための作品集は今まで作ったことがなかったので、それも仕上がりが楽しみです。TOKYO CULTUART by BEAMSによる新作Tシャツも1種2色展開で販売します。

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将来の目標をお聞かせください。

K:
ともかく自分が納得できるレベル、より良い仕事の質と量にたどり着くことですね。また、今は書籍の装画・挿絵など、紙媒体の仕事が中心ですが、せっかく3DCGで制作しているので、リアルなコンセプトデザインがやれたらと思っています。例えば、舞台や映像作品、映画のセットのコンセプトデザインなど、3Dの発想が求められるアイディア作りは、今の延長でスムーズに手がけられるはず。あとは、お店などのインテリアのコンセプトデザインも面白いと思いますね。今後そうして少しずつ、多くの方と知り合いなから制作の幅を広げていくことが目標です。

星野勝之(イラストレーター)

1976年生まれ。日本デザイン専門学校卒。2000年よりイラストレーターとして活動を開始。'04年、'05年と連続して「装画を描くコンペティション」(ギャラリーハウスマヤ)に入選し注目を集めた。以後、古川日出男や池上彰、アーサー・C・クラーク、三崎亜記などの書籍装画を数多く手がける。'10年、YOUNG ARTISTS JAPAN vol.3にて審査員(アートフロントギャラリー)賞。'12年、ASIAGRAPH CGアートコンペで入選。最近の個展に「模様区」('10年、ギャラリーエフ)「OSAKA MARATHON 2110」('11年、大阪・digmeout ART&DINER)がある。

http://www.geocities.jp/mbnippon/


「紫煙の未来へ」展についてはこちら
http://blog.galleryspeakfor.com/?eid=643