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東ちなつ | Chinatsu Higashi

繊細な描線と甘いカラーリングが特徴的な女の子の絵を描いている、東ちなつさん。単純なキュートさだけではなく、リアルで個性的な女性像もモチーフに選びながら、見るものにハピネスのオーラを発信し続けるような画風が人気です。さらに2012年の著書「ガールズハンドメイド」では、樹脂を使った小物の作り方や、コンペイトウなどお菓子も使ったアクセサリー作りを指南して、ハンドメイド雑貨界に新風を巻き起こしました。パーツや小物をトッピングさせる「絵画×雑貨」感覚のユニークな表現は、個展のたびにファンの目をくぎづけにし続けています。そんな東さんが、3年ぶりにGALLERY SPEAK FORで個展「one room museum」(2015年5月22日〜6月3日)を開催します。小さい頃からイラストの世界を目指していたという彼女。パターンやドローイング、アパレルデザインとのコラボなど、幅広い画風をどのような気持ちで展開しているのかなど、個展準備の真っ最中の東さんに代官山へお越しいただき、詳しくお話しいただきました。

photo : Kenta Nakano


 

絵の用途を考えながら描くのが好き

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絵はどのようなプロセスで制作されていますか?

東ちなつ(以下、C):
使用する画材はアクリルガッシュが多いです。アイディアをノートに思いつくまま描きとめておいて、下描きを作ります。その段階で構図が決まるのですが、あとはキャンバスであればチャコペーパーで、紙であればライトボックスの上で下絵を写しとって、そこに塗りを進めていくという進め方になります。雲やリボンの形など変形パネルに描く場合は、最初にまとめて作っておくんです。絵に樹脂のパーツや小物、小さいお菓子なんかを貼る表現のものもありますが、それは最後にバランスを考えて、つけたりつけなかったしますね。私は、手元から生まれるがままに、というのでもなく、いつも絵の用途を考えて描いています。飾る絵なのか印刷されるものなのか、マグカップになるのかなど。それによって、スキャンしやすい仕上げにしようとか、柄モチーフや水玉だけのほうが向いているなとか、頭の中で最終形を想像しつつカンを頼りに一番いいものに近づけていく。そんなイメージです。

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イラストレーターになられたきっかけは?

C:
小さい時からイラストレーターになりたいと思っていました。女の子の絵を描くのが好きだったし、父が新聞社勤務のデザイナーだったので、イラストレーションというイメージが身近にあったんです。父が持ち帰ってくるものの中に本の束見本やロットリング、スクリーントーンなどがあり、イラストの専門誌もよく見ていて、中学生の頃にはもうイラストレーターという職業があるということを知っていました。日大芸術学部に進学して、安西水丸先生のイラストゼミなども受講したんです。竹久夢二さんとか中原淳一さんの絵が好きでしたね。学生時代には水森亜土さんの近くでお手伝いさせていただいたこともあります。亜土さんはずっとかわいいものを描き続けて、女性を元気にしつつ、ご自身も好奇心旺盛でパワフル。その部分にはとても影響を受けています。

女性画は「着せ替え」の感覚で

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女性を描いていて、特に大切にしていることは何ですか?

C:
私が特に描きたいのは目なんだな、と自覚しています。下絵ではいつも目だけすごく時間がかかるんですよ。他のところは早いのに。塗りのときには目を一番最初に描きます。目とかまなざしが描きたいので、顔に焦点をあてたものができあがっているのかなと思いますね。あとはファッション。これは単純に好きというのがあると思うんですけど。小さいときからお人形遊び、着せ替えが好きでしたし、今、女の子の絵を描いている時も、着せ替えしている感覚なんですね。自分が着たいお洋服、好きなものをそのまま描いている感じがあります。でも、理想的な女の子ばかりを描いてはいないんです。足が太かったり、短かったり、そばかすがあったり。モデルさんのような下描きをしても、あとでちょっと足を太くしたりバランス変えたりします。そのほうがリアルに今を生きている、現実的にありそうだから好きなのかも知れないですね。女の子ってみんな、なにかしらコンプレックスがあると思うんですけど、私の絵を見て共感したり楽しい気分になってくれたら嬉しいです。

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絵だけでなく、オリジナル雑貨の人気も高いですね。

C:
小物や小さなお菓子を集めるのが好きで、はじめは古道具屋さんや旅先で目にとまると、特に用途も考えないまま買って集めていたんです。そのうちに、これを自分で作りたいなと思って、樹脂で作るようになりました。絵に貼るだけじゃなくて、アクセサリーにしたり。コンペイトウなど小さなお菓子も偶然に樹脂で固めてみたら、あら、なんかいい感じ、と(笑)。グッズとして個展で販売したらとても好評だったので、個展やイベントのたびに販売するようになりました。本(「ガールズハンドメイド」)を作るお話はちょうどその頃、別のところからいただいたんです。

私ひとりから生まれる、多様な表現

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今回の展覧会について教えてください。

C:
私は、自分で描くことから離れても、他の方の絵やアート作品を見るのが好きですし、絵をお部屋に飾ることもすごく好きなので、もっと身近に絵を飾ることを皆さんに楽しんで欲しいなと思い続けています。だからタイトルは「one room museum」。展示する絵をみたときに、これ、うちだったらどこに飾ろうかな、寝室かな、鏡台の横かな、などと想像してもらえたらと思うんです。絵を飾ると、自分の部屋だってお気に入りのプライベート美術館になるような。そういう願いを込めたタイトルにしました。新作が8割くらいですが、気に入っている過去作も展示します。あとは、定番になったコンペイトウのアクセサリーもたくさん作ってあるのと、マグカップやノート、シールも新しく作りました。新作ZINEも、ぜひ手にとって見ていただきたいですね。

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将来の目標をお聞かせください。

C:
私が最初にお仕事をいただいたのは、包装紙みたいなパターン的な絵の制作でした。女の子の絵だけではなくて、今もパターンのような絵やドローイングも描いているんです。それぞれ別の人の絵かなと思うかも知れませんが、いろんなタッチが私のなかにあります。竹久夢二さんも、美人画とともに広告や図案も描かれていましたよね。そんなふうに、どれも根っこにあるものは通じているんだな、と感じていただければ嬉しいです。ユニクロのキッズTシャツのイラストは4年前から定期的に描かせていただいていますが、私自身も去年、出産をしたばかりなので、今後子どもとママ向けのものも作ってみたいなという気持ちがあります。また、「Bakery&Table」さんという箱根のレストランの商品パッケージも描かせていただき、この春から使われています。そうしたプロダクトデザイン的なものにもどんどん関わっていけたらいいですね。

東ちなつ(イラストレーター)

金沢市生まれ。日本大学芸術学部卒。様々な手法でイラストレーションを展開する他、手芸クラフトによる作品も発表。装画を手がけた著書に、柚木麻子「王妃の帰還」、川上未映子「世界クッキー」、角田光代「福袋」など。「Hanako」「oz plus」「SPUR」「LARME」などの雑誌や広告でも幅広く活躍中。ユニクロのキッズTシャツのイラストや、ニューヨークのアーティスト、オ・ルヴォアール・シモーヌの2014年ジャパンツアーグッズを手がけたことでも話題に。著書に「ガールズハンドメイド」(パイインターナショナル)がある。

http://chinatsuhigashi.com/


「one room museum」展についてはこちら
http://blog.galleryspeakfor.com/?eid=646