古田 亘 | Wataru Furuta
俳優、タレントたちの撮影を数多く手がけている古田氏。映画のプロデュースや監督業の経験もありながら、独学で写真表現の道に入り込んだ異色のキャリアです。2015年の「少年と海」展では、神奈川県葉山町の浜辺から海の表情を追ったシリーズを初公開。海だけを撮りながら、実はファインダーの後ろ側に遊んでいる息子たちへの思いも写り込んでいるという感動的なファクターがありました。そして2016年は全く場所を変え、森や水辺をテーマにした「GREEN GATE」展を再びGALLERY SPEAK FORにて開催します(2016年3月18日〜30日)。その名のとおり、人里から森へ通じる里山や茂み、渓流、そこに棲む神が宿ったような樹々に「門」を感じ、その向こうにいる何かへ視線を向けたというシリーズです。見えないものと見えるものとの相関関係。そんな、海や森、人を問わず古田さんのクリエイション全てに一本しっかり通った主題について、詳しくお聞きすることができました。
photo : Kenta Nakano
ディレクションの基本として写真の道へ
- ───
- 写真作品はどのような手法で制作されていますか?
- 古田 亘(以下、W):
- ほぼ全てデジタルカメラで撮っています。基本的には中判カメラを使うことが多いですが、35ミリのカメラも使います。半々くらいかな。仕事で撮影をすれば印刷された仕上がりになることも多いのですが、自分の作品をプリントするということは、実は今までやらなかった。もともとは映像ディレクターだったので、写真は画像データとして完結していて、紙にプリントするということが不自然だったんです。2015年の「少年と海」展をきっかけにプリントもするようになり、新しい世界が開いたという感じがしています。
- ───
- 写真家になられたいきさつは?
- W:
- 写真を撮り始めるまで、いろんな仕事をしてきました。はじめは自分のことを企画屋だと思っていたんですよ。企画を考え、プロデュースやディレクションは文字や言葉を扱い説明をする仕事です。でもそのうち時々、制作スタッフとの意思疎通がうまくいかず、いつまで経っても着地点がないということが起きるようになってきて。じゃあ自分で撮ったほうがいいだろうなという流れになり、ディレクションしながらカメラもやるようになりました。「基本は写真だよ」とアドバイスしてくださる方もいました。カメラマンって、膨大な情報をその絵に落とし込むわけですが、その情報や知識を知っていればディレクションに説得力が出ると教えてくださった。それから独学で勉強したんです。そうしたら、あまりにも奥が深くて面白くて。しかも撮った写真を評価していただけたので、続けていこうと思いました。映像ディレクションは、いわば物語を紡ぐ仕事ですが、僕の場合、一枚ずつの絵を完璧に作りたいというタイプだったので、制作現場の進行が遅かったんですよ。でも自分で絵の全てを決めることができるようになったら、ずいぶんスムーズに早く仕事ができるようになりました。これは自分に向いているんだろうなと思いましたね。今では、自己表現の方法として写真が一番手軽で身近なものだし、一番リラックスしてできるものですね。
作品の集積と発酵が臨界点に達した時に
- ───
- どんな時に作品のイメージが浮かび、まとめあげていきますか?
- W:
- 写真を撮ること自体は常にやっていることですが、それをいつ創作としてまとめるか、タイミングが大切ですよね。袋に詰めていったものが溢れる瞬間のようなものが常にあって、それが自分の内から来たり、外から来たりという感じです。そろそろまとめてみたらと誰かに言われるとか、自分からまとめてみたいと思うとか。そういうふわっとしたタイミングが重なってきたときに、それをやるんだと思うんです。「少年と海」の場合は、自分でそういうふうに思った。「GREEN GATE」の場合は、やってみないかといわれて、あ、そうかと腑に落ちたんですけど。作品の集積と発酵が臨界点に達している時なんでしょうね。それを無理せず捉えちゃうという感じで発表しています。
- ───
- ご自分の写真の特質や、絵作りのルーツって何だと思いますか?
- W:
- 映画も絵も彫刻も好きなので、すごくたくさん見ます。いろんなものに影響されていると思うんですけど、集約するとすれば、王道なものが好きなんです。舞台だったら「レ・ミゼラブル」とか、映画だったら「バック・トゥ・ザ・フューチャー」とか。大衆的なエンターテインメント。その中にある細かいエッセンスを発見したりするのが好きなんですよ。なぜこの作品はこれほど評価されるのか。批判があっても、それに評価で打ち勝っていけるものが尊敬できるものになります。そういうものって、えてしてシンプルで強いメッセージを持っていますよね。だから僕も、できるんだったらいろんな演出をフレームの中に入れていくんですけど、今の僕の技術の中で一番やれる王道というのは何かということを常に考えて、フレームを決めているんだと思うんです。また、ちょっと不思議なものが好きで、僕は静岡県の出身なんですけど、地元には森とか山が多いんですよね。小さい頃には、そういう不思議な場所へ冒険気分で遊びに行っていましたが、今もそんな探検を続けているという気がします。人がいないのに、どこかに人を感じる風景。仕事で人物を撮ることが多いので、自作ではそういうものを狙っているのかも知れません。
異界へ通じる「門」を並べるように
- ───
- 今回の展覧会について教えてください。
- W:
- 愛媛県の内子町を中心に京都や葉山、南フランスのアルルなど、自分の仕事現場や身近にある森や緑を撮ったシリーズを展示します。森や緑と、門というのは、すごく興味があるテーマです。門って、みんなに関わる興味深いものですよね。僕は温かい意味で捉えていて、こちら側と向こう、お互いが喧嘩しないためのものだと思っているんです。この先にいったらダメだよ、この先にこれがあるんだよという門って、ところどころにあるような気がして。 お互いの距離感を保って、接したり接しなかったり。それを意識しあうというのは大切なことだと思っているんです。そういう場を撮ってきたものが今回、展示する内容です。何かが向こう側に存在していて、それは自分の鏡かも知れないんですけど、明らかにそこに何かが存在している。パワースポットとも表現できますが、それを都会で感じることはあまりないので、今回は一堂にギャラリーで展示し、いろんな異界に通じるゲートが並んでいるような展示になるといいなと思っているんです。
- ───
- 物販アイテムについて、2〜3、おすすめしてください。
- W:
- まず展示写真を収録した、20ページくらいのブックレットを作りました。ぜひ皆さんに手にとって見ていただきたいですね。あとはタイトルにちなんで、珍しい緑のベアブリックも販売します。また、トートバッグなどもあるのですが、今回は全てのアイテムに、シードペーパーというタグをつけます。シードペーパーとは、再生紙に植物の種が漉き込まれているもので、水で一日ふやかし、土をかけて鉢に入れておくと芽が出るという面白いタグです。それも楽しんでいただけるといいですね。
- ───
- 近い将来の目標をお聞かせください。
- W:
- 海は、これからもライフワークとしてずっと撮り続けていきます。「少年と海」を写真展として発表してから、いろんなところから声をかけていただいたので、今年は葉山で展示会をやったり、都内のグループ展に参加したりします。今後は国内外問わず様々な場所で展示し、多くの方に見ていただきたいと思っています。本という形態はやはり素敵なものだと思っているので、いつかきちんとまとめて「少年と海」の写真集を出版したいですね。誰かの家の本棚にずっと残るものにできたら嬉しいです。そして、役者さん、演じている人も海や緑と同じように好きです。そういう方たちのポートレートも継続的に撮っていますので、作品としてそうした魅力的な人々と出会い、撮らせてもらうことはずっと続けていきたいと思っています。
古田 亘(写真家 / 映像作家)
1971年、静岡市生まれ。カナダ国際大学卒。制作会社にて様々なメディアコンテンツを手がけた後、2001年に株式会社ゴーグルを設立。浅野忠信初監督作品「トーリ」('04年)のプロデュースや、サーフドキュメンタリー映画「アドア」('07年)の監督として注目を集めた。その他、BS-TBSなどのテレビ番組やキャンペーン、HELLO! PROJECTによる舞台公演のためのデザインや写真、映像演出も手がけている。'09年より「いぶすき子ども映画祭」審査委員長。'15年「BS-TBS功労賞」受賞。「APAアワード2016」にて入選。最近の個展に「少年と海」('15年、GALLERY SPEAK FOR)。
「GREEN GATE」展についてはこちら
http://blog.galleryspeakfor.com/?eid=688